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古くから用いられてきたアロマセラピー=芳香療法

 アロマセラピーとは、フランス人の科学者ルネ・モーリス・ガットフォセが1930年代に生み出したアロマ(芳香)を用いるセラピー(療法)という意味の造語です。アロマセラピーの定義として、ひとつの指針となるのは、植物から抽出したエッセンシャルオイル(精油)を使った療法であること。エッセンシャルオイルは、芳しい香りの成分を含んでいるだけでなく、いまだ解明しきれないほど多様な薬効成分を含んでいます。芳香成分と薬効成分、両方の良さを引き出して心身を健康な状態に導く自然療法、それがアロマセラピーです。

 自然療法の中でも植物を用いる療法には、アロマセラピーのほかにハーブ、フラワーエッセンスなど多岐に渡り、広くは日本で親しまれているユズ湯や菖蒲湯なども含まれるといえます。また、宗教的な儀式でお香が焚かれてきたことも、植物が持つ香りと、その薬効の恩恵に預かる目的があったのではないかと考えています。

アロマセラピーの主役、エッセンシャルオイルの物語

古代エジプトの頃から薬として扱われていた植物

 世界三大美女のひとりといえば、多くの人がその名をあげるであろう古代エジプトの女王、クレオパトラ。彼女の美貌にとって香りは不可欠な要素であり、体のパーツごとにジャスミンやローズを漬け込んだ香油を塗りわけ、えも言われぬ美しい香りを漂わせていたと言い伝えられています。また、ローズの香油を自身が移動する際の船の帆に塗り、クレオパトラの船が近づいてくると、風とともに芳しい香りが漂うという粋な演出をするなど、香りを有効活用して政治的手腕も発揮していたようです。そのほかにも、古代エジプトでは宗教儀式においてフランキンセンスが使われていたり、ミイラづくりに際して殺菌や防腐の目的でミルラやシダーウッドといった植物が利用されていたことがわかっています。

 植物療法の歴史を遡ると、古代ギリシャでは「医学の祖」といわれるヒポクラテスが、植物を使った芳香風呂の効用や伝染病を防ぐためのアプローチについて細かな記録を残しています。その後、古代ローマ帝国を中心に芳香植物の利用はより盛んになり、薬学にも大きな影響を与えていくことになります。とくにローマ軍の軍医を務めてたギリシャ人医師ディオルコリデスが記した『マテリア・メディカ(薬物誌)』は長きに渡り薬草医学の参考書として広く利用されました。

エッセンシャルオイルの誕生、自然療法は僧院医学で盛んに

 しかしながら、古代ローマで栄えたこれらの自然療法の知識は、東西ローマ帝国の分裂後、宗教と政治の一致などから、しばらくは修道院を中心に受け継がれていきます。そして知識の多くは、イスラム世界へと伝播。11世紀初頭になると、芳香療法の歴史の中で偉業を成し遂げたアラビアの医師、「イブン・シーナ(アウィケンナ)が現れます。医学者、哲学者でもあった彼は、『医学典範(カノン)』というヨーロッパで後に医科大学の教科書として使われることになった書物をまとめたことでも知られています。彼の偉業は、錬金術を研究するプロセスでエッセンシャルオイルの蒸留法を完成させたことで、芳香療法の発展に大きく寄与しました。また、ローズのエッセンシャルオイルを蒸留する際に得られるローズの蒸留水(フローラルウォーター)を、はじめて医療に使用したのもこのイブン・シーナだったそうです。

 こうしてイスラムの世界で生まれたエッセンシャルオイルは“アラビアの香水”と呼ばれ、フローラルウォーターから渡ってきた香木やスパイスとともに十字軍によって持ち帰られ、ヨーロッパに徐々に広まっていきました。12〜13世紀頃のヨーロッパでは、とくに修道院の修道士は尼僧による“僧院医学”というかたちで、植物やエッセンシャルオイルを使用してさまざまな治療が行われるようになりました。ローズマリーなどが原料の香水として、あるいは胃薬のように飲まれていたともされる「ハンガリアンウォーター」が作られたのも、この僧院医学からといわれています。

 16〜17世紀頃は、ハーブは香水の原料であると同時に薬草の原料でもあり、薬草医学が非常に発展。現代にもその名が語り継がれている、ニコラス・カルペッパーのような著名ハーバリストも登場。17世紀末には初めてのオーデコロンが誕生し、フランスでは調香師が活躍。19世紀には有機化学が発達し、植物からひとつの成分を抽出できるようになり、その成分を合成することも可能に。この流れから20世紀には合成された薬の勢力がぐんと増し、医学の主流は自然療法から近代薬学や医学へと移っていきました。

心と体を全体的にケアするアロマセラピーの確立

フランスで化学者として働いていたルネ・モーリス・ガットフォセは研究中に火傷を負い、とっさに近くにあったラベンダーオイルに手を浸したところ数日のうちに治癒してしまったそうです。この経験から彼はエッセンシャルオイルの効果について研究をはじめ、1937年に「Aromathérapie」を著しました。以降、医師や化学者を中心にエッセンシャルオイルの研究が進み、フランス人医師ジャン・バルネは『植物=芳香療法』という著書で、負傷した兵士の治療にティートリーなどのエッセンシャルオイルを使った臨床記録や成果を報告しました。また、イギリスでは1950年代から60年代に活躍した生化学者で東洋医学や哲学も学んだマルグリッド・モーリー女史がビューティセラピストとしてサロンをオープン。マッサージにエッセンシャルオイルを取り入れた実践と理論から、アロマセラピーは“精神と体をまるごと=ホリスティック(全体的)に癒す”という考え方を、世に紹介しました。

Teaching from…

鎮西 美枝子先生(ニールズヤード レメディーズ)
ホリスティクスクール ニールズヤードレメディーズ講師、AEAJ認定アロマセラピスト、JAMHA認定ハーバルプラクティショナー。アロマセラピーの歴史についての造詣の深さはもちろん、エッセンシャルオイルを用いた調香にも詳しい。

ホリスティックスクール ニールズヤード レメディーズ
アロマセラピースクールの先駆として、1996年に開設。アロマやハーブなどの自然療法を基礎から学べる。プロの技術を習得でき、アロマセラピストのクラスも充実している。

Edit SATORU SUZUKI
Text KUMIKO ISHIZUKA

こちらの情報は『CYAN ISSUE 020』に掲載されたものを再編集したものです。

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