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大地の荘厳さと神秘を感受するスパイシー&ウッディな香り

「なぜ植物は、さまざまな化学成分を含む精油をその内側に秘めているのか?それは、環境から自分を守るためではないかといわれています。しかしながら、精油の代表であるラベンダーひとつをとっても、それがイギリス産かフランス産か、土や水などの条件が変われば、含まれている化学成分の内容や量、香りの雰囲気も違ってきます。まさにワインと同じようなもので、産地や生育環境、収穫時期、生産過程におけるロットによっても、違いが出てくるものなのです。」
 同じ種類でも、精油によって個性の違いがあることを教えてくれたのは、ホリスティックスクール ニールズヤード レメディーズで長年に渡り、精油を使った自然香水やアロマセラピー講座など、講師活動に従事している鎮西美枝子先生。今回紹介するスパイシー&ウッディな香りの精油は、フローラルやシトラスが持つ華やかさとは一線を画す。土中に渦巻く養分や、森の神秘に誘われるかのような、ミステリアスこの上ない香りの歴史を辿ってみよう。

祈りとともに焚きしめられた スピリチュアルな香りたち

 スパイシー&ウッディな香りを代表する精油として、今回フォーカスするのはフランキンセンス、ミルラ、シダーウッド、ジュニパーベリーの4種類。フランキンセンスとミルラは、深みのあるスパイシーでドライな香り、シダーウッドとジュニパーは清々しさや落ち着きのある香りが特徴。そしていずれも、紀元前から活用されてきたという。
「新約聖書の中でも有名な、イエス・キリスト誕生の際に東方の三博士が祝福として3つの捧げものを持って訪ねたというエピソード。その3つの捧げものとは、黄金・乳香(フランキンセンス)・没薬(ミルラ)です。フランキンセンスとミルラは樹脂ですが、どちらも紀元前2000年頃から黄金と同じほどの価値を置かれていました。樹脂や樹木の精油には、殺菌や抗菌効果があります。とくに樹脂は、木を傷つけた時に血液のように流れ落ちてくる樹液が固まったものです。つまり、傷口から病気に感染してしまわないように、かさぶたのような役割を果たしてくれているのが樹脂。なので、フラキンセンスやミルラは皮膚再生の促進、シワ予防などのエイジングケアに適した精油です。また、この二つを一緒に配合することで相乗効果を期待できるといわれています。」

伐採しての抽出が必要な樹木は絶滅の危機に瀕することも

「基本的に樹木から抽出する精油には、すべて森林浴と同じように、リフレッシュしたり、癒されるような作用があります。香りを嗅ぐうちに、自然と呼吸のリズムがゆったりと、深くなっていくような香りです」
 そして樹木から抽出する精油というと、サンダルウッド(白檀)が真っ先に思い浮ぶ人も多いかもしれない。確かにサンダルウッドは、ウッディノートの代表として君臨してきた種類の1つだが現在は環境的な問題に直面しているという。
「サンダルウッド精油といえば、本来はインド産のものを指しました。サンダルウッドは、木の心材からしか精油を抽出できないため、伐採して抽出するしかありません。とくにインド産の中でもマイソールのものはと上質といわれており、木の伐採が進むにつれて非常に希少価値の高いものとなっていきました。現在ではもう、マイソールのサンダルウッドはインド政府の管理下に置かれ、簡単には手に入らない状況です......。このような理由から、自然との共生を大切にするニールヤード レメディーズでは、すでに10年以上前にサンダルウッドの精油の取り扱いを中止しています。そのほかの樹木では、中国家具などに使われるローズウッド(紫壇)も、主要産地であるブラジルのアマゾンでは伐採が禁止され、同様の状況に陥っています。」
 サンダルウッドについては、最近はインド産の近縁種で、より早く育ち、精油が採りだしやすいといわれるオーストラリア産のものが代用品として流通している。インド産より深みやシャープさは弱いものの、AEAJ(日本アロマ環境協会)の学習精油としても追加されることになったという。

「精油は、添加物などを一切含んでいない全く自然ものなので、原料である植物が育つ地域の環境変化に大きく左右されます。人間の都合だけで大量生産のための伐採や採取を進めていけば、必ずある時期からはその植物の精油を簡単に手に入れることができなくなってしまいます。」
 ここ十数年間で、精油をはじめ植物成分を扱う多くの企業に、自然保護、サスティナビリティ(持続可能性)、トレーサビリティ(追跡可能性)、そして貧困などの問題を抱える産地の就労支援など、エシカル(倫理的)な観点からの対応が求められるようになった。ことさら樹木は植物の中でも生育に時間がかかるため、ウッディな香りの精油の需要が増すほどに供給が追いつかなくなるというバランスの崩れが起こり、環境コンシャスの流れに拍車をかける要因のひとつとなっている。
 質の良いスパイシー&ウッディな香りは、自然と接触する機会が減少しストレスフルな生活を強いられている現代人にとって、安らぎと同時に生きる力を補ってくれるような存在ともいえる。人為的に作り出すことは決してできない、希少なエッセンスが凝縮された精油はまさに “有り難いもの”、 魂を癒す薬のような感覚で生活に取り込んでいきたい。 

Teaching from…

鎮西 美枝子先生(ニールズヤード レメディーズ)
ホリスティックスクール ニールズヤード レメディーズ講師、AEAJ 認定アロマセラピスト、AEAJ 認定アロマセラピーインストラクター、JAMHA 認定ハーバルセラピスト、JAMHA 認定ハーバルプラクティショナー。アロマセラピーの歴史についての造詣の深さはもちろん、 エッセンシャルオイルを用いた調香にも詳しい。

ホリスティックスクール ニールズヤード レメディーズ
アロマセラピースクールの先駆として、 1996 年に開設。現在は表参道校・大阪校があり、精油やハーブを用いた自然療法を本格的に学べる資格取得の講座から、実践しながら楽しく学べる1Day講座まで、充実した講座内容が魅力。

Edit SATORU SUZUKI
Text KUMIKO ISHIZUKA

こちらの情報は『CYAN ISSUE 021』に掲載されたものを再編集したものです。

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