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 東京郊外の閑静な住宅街に榊さんのアトリエはある。広々とした庭で、多種多様な植物が育まれている。榊さんは幼い頃からものづくりが身近にある環境で育った。
「祖母や母がなんでもつくれる人で、その影響は大きかったと思います。大学卒業後はアパレル企業に就職し、販売やVMDの仕事を経験しました。8年ほどアパレルで働いていましたが、年を重ねるごとに流行りを追う業界と自分の感覚との間にギャップを感じるようになってしまって、改めて何をやりたいのか、自分の気持ちと向き合った時にふと浮かんだのが、植物の仕事でした」

植物とともに暮らす

広々とした庭には苗木が並ぶ。「朝起きて、まずは植物を観察します。花が咲いたり芽吹いたり、葉が色づいたり。季節によって楽しみが変わります」

 葛藤を感じていた時に出会ったのが、後に榊さんの師匠となる塩津丈洋さんだった。
「5回コースのワークショップに参加したことが、師匠と出会ったきっかけでした。植物を枯らさずにちゃんと育てることができたのですが、そのときに師匠に言われた『榊さんは植物を育てる才能があるよ』という言葉は今も心に残っています。アパレルの仕事を続けながら1年間お手伝いをさせてもらい、その後弟子入りしました。弟子入りから2年後、師匠の屋号である『塩津植物研究所』から名前をもらい、2016年に『榊麻美植物研究所』を立ち上げました」

 榊さんが塩津さんからもっとも影響を受けたのは、植物との向き合い方だったという。
「もともと植物は好きで部屋に飾ったりしていたのですが、どこかインテリアとして扱っていたようなところがあって。師匠は本当に植物が大好きな人で、生き物に接するように育てていらっしゃいました。師匠に出会ってからは、私も生き物に接するような感覚で植物と向き合うようになりました」

思い入れのある作品

ワークショップの卒業制作。種が飛んできて自然に芽吹いたり、苔が厚みを増したり、自然に任せることで思わぬ発見があります」

 榊さんが手がけた植物は自由でのびのびとしている。だからといって決して粗野なわけではなく、洗練され、凛とした美しさがある。
「盆栽は植えて終わりではなく、そこから年月をかけて風格を出していくものだという考え方があります。針金をかけて形を固定するという方法もあるのですが、私はどちらかといえばのびのびとした環境の中で、自然に任せていきたいと思っています。師匠のワークショップの卒業制作でつくったエゾムラサキツツジの鉢は、それが体感できた一例です。育てはじめて6、7年経ちますが、自然に任せることで日々思わぬ発見があります。一般的に盆栽は整えられているものの方が、評価が高くなる傾向にありますが、私は昔から完璧に整ったものよりも、ちょっと隙があるようなものが好きで。だから自然に任せる形が心地いいのかもしれません」

“植物と共に暮らし、植物の声を聞く。そうすることでしか伝えられないことがある”

 「学ぶ」「綾なす」「贈る」「寿ぐ」「診る」の5つのことを軸に活動する榊さん。植物の販売のみならず、積極的にワークショップを行っている。
「今は良くも悪くも植物が手に入りやすい時代。そのような環境にあるからこそ、私のワークショップを受けていただいた方には、育て方をお伝えすることはもちろん、アフターケアもしっかりするというスタンスをとっています。質問だけでなく、紅葉しましたといったような報告をいただくこともあります。植物を買っていただいて終わりではなく、その後もつながりを持っていきたい。植物を枯らしてしまうという方でも、できるだけ植物と長く付き合っていただけるようにすることが私の役目だと思っています」

こだわりがつまった自作の鉢

「鉢は信楽の土を使って私が作陶しています。形や色合いはできるだけシンプル。鉢と植物とのバランスを大切にしています」

 榊麻美研究所の活動で大切にしていることを聞いた。
「第一にお客様と長く付き合っていくということと、植物ひとつひとつの個性を常に観察することです。植物との暮らしの中から得た経験をお客様に還元していきたいと思っています。独立して4年目を迎えましたが、経験が増えるたびに伝えられる量も増えています。
 ワークショップを主催して気づいたのですが、私がかつて師匠に言われたように、植物を育てるのが上手なんだろうなと感じる人がいます。単純に手先が器用とかそういうことではなく、触れ方だったり、観察する頻度やみている濃度が違うというか。うまく言葉にはできないのですが、植物の変化を敏感に感じ取ることができるかどうかが植物を育む上で大切なのだと思います」

物語のある、心地よい空間

榊さんの琴線にふれたものが、センスよく並べられているアトリエ。「室内では剪定をしたり、鉢植えをしています」

 榊さんが活動を通して今後目指していることは何なのだろうか。
「この仕事をずっと続けていきたいです。現在は東京にアトリエがありますが、地方の裏山で種を採れるような環境で植物と向き合うことができたら、もっと面白いことができるのではないかと思っています。私は昔から、人にアドバイスされても本当に自分が納得しないと受け入れられないようなタイプ。だからこそ、常に自分の気持ちに正直に動くようにしています。これからも、自分のペースで、自分のやりたいことを突き詰めていけたら。空間づくりを含め、植物を見せるもっといい方法があると信じているので、これからも模索していきたいと考えています」

Photography MIE NISHIGORI
Edit & Text YURIKO HORIE

こちらの情報は『CYAN ISSUE 024』に掲載されたものを再編集したものです。

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