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 新井薬師前の夜の商店街に、ぼんやりと浮かび上がるバー&アートギャラリー スタジオ 35分。昨年末の展示を締めくくったのは、オーナーであり、写真家としても活躍する酒航太さんだ。

ギャラリー スタジオ35分

ギャラリーでは、過去・現在関係なく酒さんが重要だと思う作家を紹介する。この日は、酒さん自身とも縁があるという作家・鬼頭正人氏の絵画を展示。

 酒さんが写真を撮り始めたのは、留学先のカリフォルニアでの授業がきっかけだ。
「語学力は必要ないだろうと思って、写真の授業をとったのが出合いです。最初は自由にバンドのライブやスケボー仲間のような身のまわりの好きなものを撮っていました。遊びの延長でできた作品をクラスに持っていくと、みんながそれについて講評する。自分の生活を見せて議論し合うなんてことは、あんまりないことですよね。それがすごく楽しかった。写真は自分と繋がれるツール、という感じでした」

 以来、日本に帰国しても写真を撮り続け、暗室で使用していた作業場をギャラリーに改装した。そこで、自身や知り合いのアーティストたちの作品を展示しては、お酒を持ち寄って集まっていたのをきっかけに、バーも隣接させることに。こうして、夜のギャラリーという今のスタイルが自然と確立したという。
「最初は自分の作品を見せるための場でした。作品は発表していかないとよくはならないし、見せるということは大切です。長年、撮っているこの動物写真もそろそろ作品としてまとめたいと思い、そのためにも今回の展示をすることに決めました」

自宅の玄関先にはトレイルカメラを

「昨年から、自宅の庭にトレイルカメラを置いて野生動物を観察し、ツイッターで公開しています」都内にもかかわらず、多くの野鳥やタヌキが訪れる。

 酒さんが今回発表した動物写真は、もう何年も撮り続けているテーマだ。一体なぜ、それほどまでに動物に魅了されているのかを尋ねると、“宇宙” という思いもよらないワードが飛び出した。
「僕にとっての動物は “宇宙” を感じさせるもの。動物を見ていると、生きものの不思議に直面し、ファインダー越しにずっと観察していると彼らが宇宙人のようにも見えてくる。そして、僕は人間だってことを意識し、地球にはいろいろな生きものが共存していることをあらためて感じることができます」

写真や俳句を通して、もっと自分と直結したい。

 酒さんの作品の多くは、動物園に足繁く通うことで生まれている。なぜ動物園で撮影するのだろうか。
「動物園って場所が興味深いところだからです。あるひとつの空間に様々な生物が集められている動物園は、閉鎖された異空間。本来、自然界であればあり得ない違和感がある。そこでいろんな生きものたちがピュンピュン跳ねたり、水の中を漂っていたりすると、とにかくたまらなくなる。

酒さんの過去の作品たち

動物園で撮影することが多い。「上野動物園は都会の都会のど真ん中にあれだけの種類の動物を集めている。大きなエネルギーが渦巻いてるのを感じます」

 静かにこちら側を見つめてくるような動物の姿を捉えたモノクロームの写真は、たしかにどこか次元の違う場所で撮影されたようでもある。かわいいだけではない、異世界を感じさせるような佇まいが切り取られているのだ。
「ガラスや檻の “向こうの世界” にはパラレルワールドが存在するように感じます。そういう感覚を、難しいことではありますが、写真ならではの方法で伝えられたらいいかなと思っています」

 そんな酒さんが、もうひとつ、表現の手段として夢中になっているのが俳句だ。写真は酒さんにとって「自分と繋がれるルールであり、世の中を見る手段」というが、その点では俳句も共通しているところがあるという。

手放せない歳時記

俳句の季語を集め分類した歳時記は俳句を詠むための必需品。俳句を始めたことを知ったお義母様が贈ってくれたもの。

「俳句は、最近、新たに発見した “遊び” です。写真は押せば何かは写るけど、俳句は何を表現したいのかをはっきり言語化させないと完成させられない。テーブルの上の林檎を伝えたい時に、写真は一瞬でいろんな情報を同時に捉えられるけど、俳句の場合はその林檎の情報を言葉で伝える必要があるんです。つまり、色、形、新鮮さなどの様子をしっかり観察しなきゃならない。そういう点では、俳句は写真より物事をしっかり見なくてはいけないのかもしれません。それが上手くいくと、受け手がそれを視覚化できる」

 写真と俳句の関係性にも興味を持つ酒さんは、いつか写真に俳句をつけることにも挑戦してみたいと語った。
「ふたつは似ているとというか相性が良いと思います。どちらも、想像の余地を与えてくれるし、ともに見る人が重要になってきます。写真と俳句は、おそらく昔から仲が良くて、それに気づき、その奥深さにはまってしまいました」

Photography MAHO NAKANISHI
Edit & Text TOKO TOGASHI

こちらの情報は『CYAN ISSUE 024』に掲載されたものを再編集したものです。

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