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どんなものにもさっと振るだけで味の深みが増し、食欲増進効果のあるペッパー(=胡椒)は、季節を問わず楽しめて、かつ、私たちの暮らしの中でも最も一般的に浸透しているスパイス。近ごろでは、食材店で黒胡椒、白胡椒の他にピンクや青い胡椒も見かけるようになりました。
南インド原産の胡椒は、自国では栽培ができなかった中世ヨーロッパで同じ重さの金と同じくらいの価値があるとされ、そのためヨーロッパがアジアなど東方へ進出し大航海時代に至ったことは有名です。

しかし、意外とその分類、植物としての個性は知らないものです。例えば日本でよく見かける「コショー」の表記のある粉末状のものは、黒胡椒だけでなく、白胡椒を合わせて挽いて粉末にしたもの。これは日本独自の製品で、海外ではほとんど見かけないそうです。
また“洋食のお供”というイメージの強い胡椒ですが、日本には奈良時代に文献に薬種として登場するなど、古くから珍重されてきました。現在でも東大寺正倉院には胡椒の実が現存しています。フードスタイリストの山崎由貴さんも、沢煮椀に黒胡椒を少し加えたものや、甘辛いウドの皮のきんぴらにたっぷりの黒胡椒を振った料理を食べたときの絶妙さは「衝撃的だった」といいます。「挽きたての胡椒はウドのやさしい風味を殺さず、でもしっかり胡椒が主張していて。2つを組み合わせる前より間違いなく、より爽やかで香り高くなっていました。この時の経験から和の食材や料理とハーブ・スパイスの組み合わせに興味を持ったほど」というように、もともとはやはりアジアのものと相性のいい胡椒。その奥行きを上手に使えば、意外な食材の隠れた良さが更に引き立つかもしれません。
黒胡椒・白胡椒は、いずれも同じ品種のもの。白胡椒が完熟した赤い実を水に漬け、赤い外皮を剥いて乾燥させたものであるのに対し、黒胡椒は熟す前の実を長時間かけて乾燥させたものです。つまり、ピンクペッパーはその白胡椒の外皮を外さずに乾燥させたもので、辛味もマイルド。独特の香りもあります。
この辛味の差はそのまま、胡椒に含まれる『ピペリン』という化学物質の差がもたらすもの。このピペリンは、抗菌作用や防腐作用、抗酸化作用があるとされ、中世ヨーロッパで珍重されたのはその味だけでなく、乾燥させれば胡椒そのものが長期保存できる上、食物の腐敗を防ぐ効果があるためでした。他にもピペリンにはアドレナリンの放出を促したり、エネルギー代謝を上げ、血管を広げて血流をスムーズにするため冷えを改善する効果や血中濃度を高める作用があるため、栄養の吸収を促進する効果も期待されています。
また、インド原産の植物なのでもちろんアーユルヴェーダにも欠かせない材料とされています。
どのペッパーも1本の木から。世界を変える魅力を備えたスパイス。
Pepper

アロマテラピーでは、黒胡椒から水蒸気蒸留法によりオイルを抽出し、ブラックペッパーオイルとして使用します。頭痛や血行不良、筋肉痛に有用な天然の鎮静薬として推奨されているほか、精神的な疲労の解消にも使用されるため、リラックスをテーマにしたコスメに使われたり、マッサージなどにも使われます。ただ、使う量が多すぎると炎症の原因ともなるため、単体で希釈して使うということはあまりないようです。オイルにしてじんわりと体の外から、食用にして中からも体を元気にする胡椒。いま一度その“効能”に注目して試してみるのもいいかもしれません。
コスメアイテムでは、リラックスやリフレッシュを目的にしたアイテムに 使われることが多いよう。

Photographer SUGURU KUMAKI
Styling YUKI YAMAZAKI
Edit & Text KAORU TATEISHI
こちらの情報は『CYAN ISSUE 013』に掲載されたものを再編集したものです。