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 都会に流れる小さな川のほとり、無機質なシルバーの建物が見えた。昔ながらのお店とすっかりリノベーションされたおしゃれなお店が立ち並ぶ中、そのシルバーは少し突飛で、思わず歩みを緩めてのぞき込みたい衝動にかられる。

 花屋 マウンテンの店主・繁森 誠さんは、33歳までサラリーマンとして働いていた。自然の中で過ごすことが好きだったという繁森さんだが、職場は真逆のような環境だったという。
「無菌室に関わる仕事だったので、休憩のたびに着替えてエアシャワーを浴びる、そんな環境でした。大学院を卒業した後、何の疑問も持たずに働いていたのですが、勤務中にふと空を見上げた時『こんなに気持ちのいい青空が広がっていることにも気づけない職場ってどうなんだろう』と、我に返ったような感じがしたんです。小学生のころから知らず知らずのうちに縛られていた “平日は我慢して、土日に楽しめばいい” という長い思い込みから解き放たれた瞬間でした」
本当にやりたいこと、いたい場所はここではない。自分が全力を注げること、過ごしたい職場環境を列挙し、出した答えが「花屋」だった。

年季の入ったハサミたち

毎日使っているハサミは『花屋 マウンテン』の刻印入り。「京都で450年もの歴史を持つ『有次』にお世話になっています」

「当時の年齢は33歳。時間的余裕はなく、3年後に自分の店を出そうと決めて修行先となる花屋を探しました。ただ、ネットなどの求人を見て応募するのはちょっと違うな、と。自分の目で店舗の様子を見て “ここだ” というところに直接『雇ってください』とお願いしたいと考え、100軒以上はまわりました。しかし、なかなかチャンスに恵まれず…… 途方に暮れていた時に、とある花屋さんから『経験がないなら、とにかくどこでもいいから働いた方がいい』というアドバイスをいただいたんです。最初の1年はとにかく仕事を覚える、2年目から理想とする花屋で働こうと腹をくくり、幅広い事業を展開している花屋で働くことにしました。近々独立するつもりだと伝えていたおかげで、ブライダルのブーケや装飾を任せてもらったり、最終的には店長として働かせてもらいました」

何度訪れても新鮮な気持ちに

「飽きっぽいのですぐに店内の模様替えをしてしまうんです。今は1Fの天井を抜いて、吹き抜けにしてしまいました」

 そして1年が経ち、次の修行先を探していたころ、たまたまテレビで見かけた花屋に心を動かされる。「雇ってください」と3度ほど足を運び、どうにか雇ってもらえることになった。
「自然に近い空間で過ごしたいと思い目指していた花屋という職業。しかしどこか不自然な姿の花屋が多く、違和感を覚えていました。テレビで見かけたその花屋は、ぼくが感じていた違和感の答えを示してしてくれたお店でした。どこの花屋にも当然のように配置されていたキーバー(冷蔵庫)がなく、さらに、お花自体も整然と並んでいるのではなく、伸び伸びと自由な形をしていました」

2階の喫茶で使っている器たち

「本来器ではないんでしょうけど、ケーキをこれで提供しています。必ず “わっ” と驚いてくれるんですよ(笑)」

 タイプの違う花屋6軒で3年ほど経験を積み、2012年に独立。一軒家を借り、2階に住みながら1階で花屋をオープンした。現在は2階を改装し『Q合目休憩所』という小さな喫茶スペースになっている。
「どこにいても同じようなものは簡単に手に入ってしまう時代になりました。花屋 マウンテンに足を運んでくださる意味、ここでないとダメな理由をどれだけつくり出せるのか、ということを意識しています」

“数多く存在する花屋だからこそ 花屋 マウンテンが在る意味を考える”

そして、こう続けた。
「もうひとつ、花屋 マウンテンの軸になっているのが “地球環境への配慮” です。新しいことをしようとする時はまずそのことを考えます。最近でいうと3月から店先でモーニングコーヒーの販売を開始しました。コーヒーを買うのに、カップ(=ゴミ)は必要ないと日ごろから思っていて。売れれば売れるほどゴミが増える経済中心の考えというのは時代遅れだろう、と。レジ袋だけでなくゴミとなり得るものには金額(ペナルティ)をかけた方が減らせるのではないのかと思い、タンブラー持参の方にはその分お安く提供させていただいています。コーヒーで稼ぐという考えはまったくなく、意識を変えてくれる人が1人でもいれば……という思いでスタートしました」

奮発した、カメラとレンズ

お客様の手元と花束を撮影しているカメラ。「花束には必ずストーリーがあります、それが写真を通して伝わればうれしいですね」

 最後に今後の展望についてうかがった。
「これからはリアルな世界よりもバーチャルな世界の方がより発展していくことは間違いありません。お店には足を運べないけれど、毎日SNSはチェックするという時代。ウェブ上で自分のお店の魅力を伝えることに関してはまだまだ未熟なので、独学でプログラミングを勉強中です。これからは店内だけではなくウェブ上にこそ店舗があると考え “模様がえ” していく予定です」

Photography KIYOSHI NAKAMURA
Edit & Text ERIKA TERAO

こちらの情報は『CYAN ISSUE 026』に掲載されたものを再編集したものです。

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