ABOUT
何層にも漆を塗り重ねる彫漆の技法「堆朱(ついしゅ)」。新潟県の最北・最東に位置する村上市は平安時代から天然漆の生産地として知られ、かつては村上藩の城下町として栄えた。上質な漆を用いた髹漆(きゅうしつ)と精巧な彫刻に総合された村上木彫堆朱の魅力に迫る。
漆の産地が生んだ優美な工芸
村上木彫堆朱の技法が確立したのは、江戸時代。古い城下町であった村上では、歴代の藩主がこの技法を奨励し、「漆奉行」を設置。また、地元で良質な天然漆が多くとれたことから、堆朱の生産地として急速に発展。村上藩主も、財政を支えるものとして漆の増産に力を注いだ。堆朱は村上藩士の間で余技として広まり、のちに町方の職人に伝わっていくことで定着した。
現代になるとその芸術性の高さが注目され、1955(昭和30)年2月には「新潟県無形文化財」に、1976(昭和51)年2月には通商産業大臣(現:経済産業大臣)から、「村上木彫堆朱」として国の伝統的工芸品に指定された。
長きに渡る歴史の中で、幾多の変遷を経ながらも、今日にその技法は脈々と受け継がれている。

江戸時代創業の老舗漆器店
村上市に店を構える小杉漆器店は、1762(宝暦12)年に創業。市内で最も古くから村上木彫堆朱を販売する漆器店である。現在は14代目の小杉和也氏が跡を継ぐ。
小杉氏は、1962(昭和37)年新潟県村上市生まれ。1984(昭和59)年4月に伝統工芸士・卓越技能士の富樫助次氏に師事。1987(昭和62)年に2級技能士検定に合格後、研鑽を積み、2002(平成14)年に村上木彫堆朱の塗り部門において伝統工芸士に認定された。2018(平成30)年に第17回関東伝統工芸士作品コンクールにて「関東経済産業局長賞」を受賞。同年には全国伝統的工芸品公募展に初出品で初入選、翌年も2年連続入選を果たすなど、高い評価を得ている。現在、村上木彫堆朱伝統工芸士会会長を務め、技術・技法の向上に取り組みながら、後継者育成や普及・振興に努めている。

上質な素材と職人技の融合
木地に細やかな彫刻を施し、彫りを引き立てるように漆塗りをなんども重ねることで仕上がる「村上木彫堆朱」。木地師、彫師、塗師の3つの部門の分業の多くの工程を経て、ひとつの品が完成する。
はじめに木地師によって木地づくりが行われる。小杉漆器店の木地には、トチやホオノキなどの天然木が用いられている。次に彫師によって下絵が描き込まれ、下絵の上から、裏白(うらじろ)とよばれる彫刻刀を用いて繊細な彫刻が施される。塗師の手に渡り、刀痕を木賊(とくさ)などを用いて研磨して滑らかにしたのち、生漆を木地全体に染み込ませる。この工程は「木固め」と呼ばれ、堆朱の基礎となる。さらに、彫刻のない部分には「錆付」が行われる。錆付を終えたら、「錆研ぎ」が行われ、砥石をつかって塗面を平らにするために水研ぎしていく。錆付と錆研ぎは2、3回繰り返し行われる。「中塗り」の工程では、彫刻の溝を埋めないよう指やタンポとよばれる道具を用いて漆をたたき塗りあげていく。「中塗り研ぎ」では、村上研石を用いて平面と彫刻部分に水研ぎを行なっていく。「上塗り」で彫刻部分を埋めないよう朱漆で塗りあげ、「つや消し」で表面のつやが消されることで、落ち着きのある風合いに変化していく。再び彫師の手によって、つや消しされた表面に「毛彫」という細かい彫刻が施される。最後に塗師が「上摺込み」によって生漆を全体にすり漆すれば完成だ。
これらの製造技法は古くから変わらず、現代に伝承されている。木地師、彫師、塗師のそれぞれの高い技術によって支えられている村上木彫堆朱。丈夫で長く使え、使えば使うほど色艶が増すその品々は、何世代にもわたって受け継いでいきたいものである。
CRAFTS
01. 茶筒(上彫牡丹唐草、牡丹唐草)

02. 箸 桜文

03. ぐい呑み(牡丹唐草、鮭)

04. 3WAY 四季のプレート

05. 姫鏡(上彫 ハマナス)

06. 2020年の新作の「ねじ止めアクセサリーBOX」

画像提供:〆六小杉漆器店
参考:村上堆朱事業協同組合
Photography YUYA SHIMAHARA
Edit & Text YURIKO HORIE
こちらの情報は『CYAN ISSUE 028』に掲載されたものを再編集したものです。