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箱根山系の豊かな自然を背景に発展
箱根寄木細工は、神奈川県小田原市、足柄下郡箱根町で製造される木工品。50種以上の寄木を色によって使い分けることで生み出される精巧な幾何学模様が特徴である。
その起源は平安初期にまで遡るとされる。江戸時代後期に箱根·畑宿の石川仁兵衛によってその技術·技法が確立され、今日まで継承されている。
当初は乱寄木や単位文様による寄木細工が主流だったが、今日では、いくつもの模様のパーツを組み合わせた連続文様構成の「小寄木」が主流となっている。
江戸時代には、「ヅク」と呼ばれる寄木種板の表面を鉋で薄く削る技法が開発され、今も箱根寄木細工の多くの製品に用いられている。
昭和59(1984)年5月には、通商産業大臣(現·経済産業大臣)より「伝統的工芸品」として指定された。現在では、伝統的な引き出し、小箪笥などのほか、マウスパッドやスマホスピーカー、アクセサリーなど、ライフスタイルの変化に合わせた斬新な製品が積極的に開発され、人々の生活に寄り添いながら、さらなる発展を見せている。

伝統と革新を重んじる露木木工所のものづくり
大正15(1926)年に創業した露木木工所は、小田原市で箱根寄木細工の製造・販売を行う。初代の露木清吉は、箱根寄木細工の創始者、石川仁兵衛の孫である仁三郎に師事。創業以来、伝統の技術と技法を大切にしながらも、現代の暮らしに馴染む製品の開発や製作、技術向上に取り組んでいる。
伝統工芸士である三代目·清勝氏は、昭和54(1979)年に「箱根物産デザインコンクール」特賞、神奈川県知事賞を受賞、昭和62(1987)年に第12回全国伝統的工芸品展 伝産教協会会長賞を受賞するなど、その作品が高い評価を受けている。現在は小田原箱根伝統寄木協同組合理事長を務めるなど、箱根寄木細工をはじめとする工芸品の発展·普及に取り組む。
四代目の清高氏は、平成14(2002)年に露木木工所に入社。平成20(2008)年に第5回全国「木のクラフトコンペ」大賞を受賞。平成23(2011)年には、第50回「日本クラフト展」読売新聞社賞受賞、ドイツ·ミュンヘン「Talente2011」入選。また、海外の展示会「MAISON&OBJET」「ECODESIGN 2014 TRIENNALE DI MILANO」に出品するなど、若手の箱根寄木細工技能師として、精力的に活動している。


精巧さと繊細さが生み出すダイナミズム
箱根山系は日本有数の樹種を誇り、その豊かな自然環境が箱根寄木細工の発展と密接に関わってきた。木材の色合いをいかし、つくりあげられる文様。その製作には、驚くべきほどの精密さが求められる。
箱根寄木細工の製作工程は、木材選びから始まる。寄木に使用する木材は日陰干しにし、自然乾燥を行う。
製品の文様に応じて、寄木に適した木材を配色や木目を考慮しながら選び出す。色合いと木肌が製品にとって大きな要素となるため、品質を保つ上で重要な工程となる。白色系は「みずき」、黄色系は「にがき」「うるし」、茶色系は「かつら」「けやき」など、色の系統別に、数々の樹種が用いられる。

使用する木材が決まったら、「部材木取り」と呼ばれる工程が行われる。木材を手鉋で文様に適した厚みに削り、木工用合成接着剤を塗り、重ね合わせて接着させ、締め台で締めつけ基礎材をつくる。次に行われる「かんなかけ」では、型に入れて鉋削りをし、文様のパーツとなる部材をつくっていく。
「よせき」の工程では、部材を組み合わせて接合し、文様のひとつの単位である「単位文様材」をつくる。単位文様材を複数組み合わせることで、規則性のある幾何学文様が出来上がっていく。これを「組織文様」といい、単位文様材を複数組み合わせたものを「寄木種板」という。
ここからの寄木細工の製造方法は大きく分けて「ズク貼り」と「無垢」の2種類が存在する。「ズク」とは、寄木種板を薄く削る経木削り加工が行われたもので、ズクの厚みは0.15〜0.2mmほどである。まるで文様のプリントが施された薄紙のような、驚くべき繊細な仕上がりである。木型にズクを貼ったものを「ズク貼り」と呼ぶ。一方で「無垢」は、厚みのある寄木を轆轤などで削り、加工したもののこと。茶筒や盆などはこの製法が用いられている。


画像提供:02. 03. 露木木工所 https://www.yosegi-g.com01. 04. 05. 06. 星野リゾート 界 箱根 https://kai-ryokan.jp/hakone
CRAFTS
1. 茶筒(縞市)

2. 角盆(白麻、白小寄木)

3. 四ツ引き出し(白小寄木)

4. 合子(麻葉、青海波、松皮菱)

5. 5寸小物入れ総貼り(小寄木、白小寄木、市松)

Photography YUYA SHIMAHARA
Edit & Text YURIKO HORIE
こちらの情報は『CYAN ISSUE 029』に掲載されたものを再編集したものです。