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街にゆったりとした時間が流れる平日の昼前、カフェの一角で女性たち一人ひとりに優しく丁寧に刺繍を教えているのは、刺繍作家の目黒愛さん。7歳と2歳の息子を育てる二児の母でありながら月に数回ワークショップを開き、自分の作品づくりを続けている彼女に刺繍作家になるまでの経緯を伺った。

「祖母が手動ミシンを使ってお洋服を作っていたり、お裁縫が好きな人だったので幼少期の頃から“お裁縫”というのは自分の身近な存在でした。初めて私が針と糸を手にしたのは小学生の夏休みです。課題で自由工作があり、祖母に『これを作りなさい』と簡単な刺繍キットを渡されました。描いてある通りに縫えばウサギの絵が完成するものだったのですが、それを学校に出したら賞をいただけたんです。その賞をもらえたことが嬉しくて、『私、刺繍が得意なんだ』と自分ながらに自信をつけ、そこから色々試して作ってみたり、何にでも刺繍を入れてみたり、自然と刺繍が趣味になっていました。高校生になった頃には、友達へのプレゼントにハンカチに刺繍を入れたり、授業中に制服のスカートに、お花や名前の刺繍を縫って入れたりしていたぐらいです(笑)」。

ワークショップの様子

月に数回行われるワークショップでは初めての人も少なくない。応募は目黒さんのインスタグラム(@ai. meguro)やブログからも可能。

まるでその頃、学校では刺繍が流行っていたかと錯覚してしまいそうだが、もちろん周りで同じことをやっている子はいなかったという。そのぐらい、当時から刺繍に人一倍興味を持っていた目黒さんは高校卒業後、服飾系の専門学校に通うことを決める。

「もともとファッションが好きだったこともあり、スタイリスト科に入りました。服を作る授業もあったのですが、機械音痴だったのと、手縫いと違って大きく動かすミシンとはどうしても相性が合わなくて……。その時に“手縫いの方が自分に合っている”という感覚とコーディネイトするよりも物を作る方が好きという気持ちに気付きました。完成した服にはもちろん手縫いで刺繍を入れていました。手縫いは必ず絵を描いてから縫うので、塗り絵みたいに色を塗っていく感覚に近くて、昔から絵を描くことも好きだった自分にはその面でもハマっていたのかなと思います」。

作品集

「額縁は雑貨屋で探しています。最近は服と女の子をテーマに、雑誌から切り抜いてきたようなイメージの作品を作っています」。

描いた絵に色鉛筆で塗るか、絵の具で塗るか、糸で色をつけるのか。刺繍の感覚はそのくらい塗り絵と似ていると教えてくれた目黒さん。彼女が本格的に刺繍作品を作り始めたきっかけはどこにあったのか尋ねてみた。

“得意かもという思い込みが 自信に繋がり今がある”

「本腰を入れてやり始めたのは一人目の息子を妊娠した時です。社会に出れず、家にいることしかできなかったので限りなく時間がありました。子供のために何か作ろうという時間が、どんどんエスカレートしていって今に至ります(笑)。ある程度作品ができるようになってからは友達に教えていたりしましたが、ブログを見てくださっていた方々からも『教えてほしい』と言われる機会が増えたので、ワークショップを開こうと決めました。近くに地域密着型のカフェを見つけて、お願いしてみたら快く受け入れてくださったので、それからはワークショップのために自分も改めて刺繍について猛勉強しました。毎月その季節に合った植物をテーマにしたかったので、図書館に行って植物図鑑を見たり、近くの公園で実物の花を見て写真を撮ったりスケッチしたりして、手書きのレシピを作っています。ワークショップには友達連れやカップル、遠方だと福岡から来てくださる方もいらっしゃって、刺繍によって新しいコミュニティができるので素敵な時間だなと思っています」。

刺繍レシピ

「初心者の方が2時間で縫い追われるサイズ感で、基礎の縫い方を入れたレシピです。季節に合わせた花を自分で選んで決めています」。

ワークショップのレシピを見ると、初心者でもわかりやすい基本の縫い方や、こうした方がもっといいという目黒さん流のアレンジが加えられており、親切で相手のことを考えたコメントと素敵な絵が添えられている。教える立場から、改めて刺繍について勉強する機会をもらったと語ってくれた目黒さんの作品に対する想いとは。

「刺繍は作品が出来上がるまでにとても時間がかかるものなので、今の時代にこうしてたっぷり時間を使うということは本当に贅沢で幸せなことだと思っています。だから買い物をしていても手縫いのものを見るとつい足が止まります。“これにはどれだけの時間がかかっているんだろう”と想像してしまいます。自分の作品に対してもあえて時間がかかることを好んでやっているので、もちろんストレスは全くないです。最近は、当時スタイリストを目指したくらい好きだった洋服をテーマに、自分だったらこれが着たいと思うものを考えて縫っています。服を作ることはできないけれど、刺繍だったら難しいことを考えずにその世界の中で再現できるので楽しいです。今後は、もしチャンスがあるなら雑誌の挿絵に挑戦したいです。あとは絵本。ストーリーを自分で考えて、全部刺繍で絵をつくって、息子たちに読み聞かせができたらいいですよね。すごく時間がかかることだとは思いますが、そのかかった時間だけきっと素敵なものができる気がします。そのためにこれからも刺繍の勉強と育児を両立して頑張っていきたいです。最初の、“得意かも”という思い込みでここまで来られたので、これからもその気持ちで突き進みたいと思います」。

愛用品

「参考にしている図鑑。そして糸切りばさみは刃先、切れ味、手に持った相性が抜群で最高のものに出会えてとても気に入っています」。

Photography YUYA SHIMAHARA
Edit & Text ARISA SATO

こちらの情報は『CYAN ISSUE 014』に掲載したものを再編集したものです。

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