About
筆記用の紙として、また障子や行灯などの家具の素材として、古くから日本人の生活に根ざしてきた「和紙」。2014年に、「日本の手漉和紙技術」(石州半紙,本美濃紙,細川紙)がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、国内だけでなく海外からの注目度も高まっている。
伝統的工芸品の「越前和紙」とは、福井県越前市で生産される和紙を指す。手漉き和紙の生産地として全国有数の規模を誇り、約1500年という長い歴史を持っている。最も古いもので、正倉院文書の天平2年(730年)の『越前国大税帳断簡』や天平4年(732年)の『越前国郡稲帳』などが残されている。江戸時代には、「越前奉書」が幕府の御用紙となり、明治時代の紙幣にも越前和紙が使われていたというのだから驚きだ。

株式会社杉原商店は、140年以上の歴史を持つ和紙問屋。明治4年(1871年)に創業し、職人たちの技術を守り続けてきた。現在は和紙の企画、製造、販売、用途開発を行い、現代の感覚を取り入れた和紙製品の開発にも意欲的だ。
中でも、日本の伝統的な塗料である「漆」と和紙を融合させた「ul washi 漆和紙」や、海外デザイナーとのコラボレーションシリーズは、今までに無かった新たな和紙の魅力を引き出している。また、「MAISON&OBJET」や「ミラノサローネ」など、世界のインテリア・デザイン関連の見本市・展示会にも出品するなど、積極的に海外へ情報発信を行っている。
長年受け継いできた伝統的な技術を守りながらも、新たな感性を取り入れた商品を提案する杉原商店。越前和紙を知り尽くした専門家としての、これからにも期待したい。

福井県越前市は古い歴史を誇る都市で、奈良時代には越前国の国府が置かれていた。手仕事の町としても有名で、「越前和紙」以外にも、「越前打刃物」と「越前箪笥」が国の伝統的工芸品に指定されている。
夏は豊かな緑に囲まれるが、冬はとても雪深い。和紙づくりには、きれいな大量の水が欠かせないことから、この地はとても和紙づくりに適した環境であると言える。
越前和紙は、コウゾ、ミツマタ、ガンピ、アサを原料に、「ネリ」と呼ばれるトロロアオイの粘液を加え、溜め漉きや流し漉きによってつくられる。
製造工程は多くの手間がかかっている。基本となる8つの工程に加えて、和紙の種類や職人によって異なる追加工程によって仕上げられる。
8つの製造工程は、大きく3つの段階に分けられる。
1段階目は、煮熟(しゃじゅく)と呼ばれ、繊維質を抽出しやすくするために原料を加熱処理する工程のことを言う。水浸け・洗い、煮る、灰汁だし・晒し、塵選りまでが含まれる。2段階目に、叩解(こうかい)。繊維質をたたいて分解する工程のことである。3段階目は、抄紙(しょうし)と呼ばれ、分解した繊維をもとに紙を漉く作業のことを指す。この段階には、抄紙、圧搾・乾燥、仕上げまでが含まれる。
これらの作業を丁寧に行うことで、ようやく越前和紙が完成する。1枚の和紙が完成するまでに、多くの手間と時間を要することから、和紙が持つ美しさと繊細さは職人達の技術と努力の結晶とも言える。

継体天皇が男大迹王(おおとのおう)として、越前に潜竜していた頃、岡太川の川上にある宮が谷というところに、美しい姫が現れた。
「この里村は田畑が少なく、生計をたてるのには難しいであろうが、清らかな谷水に恵まれているので、紙を漉けばよいだろう」と、紙漉きの技を里人に丁寧に教えたのだという。名前を訪ねても「岡太川の川上に住むもの」とこたえ、姿を消してしまう。それから人々は、この女神を川上御前と崇め奉り、岡太(おかもと)神社を建てて祀り、紙漉き技を伝えて今日に至っている。

上宮(奥の院)には、紙祖神 岡太神社と大滝神社の本殿が並び立ち、下宮(里宮)はこれらを併せて祀っている。昭和59年(1984年)には、大滝神社本殿及び拝殿(下宮本拝殿)が重要文化財に指定された。
岡太神社・大瀧神社の春例祭である「神と紙のまつり」は、毎年5月3日〜5日の3日間開催されている。初日は「お下り」と呼ばれ、川上御前を神輿で里宮までお迎えする。2日目は、例大祭・紙能舞・紙神楽・湯立て神事が執り行われ、3日目には「神輿渡り」という、神輿の争奪戦が繰り広げられる。最後に、川上御前を神輿にうつし、奥の院まで送り届ける「お上り」が行われる。
この地で暮らす人々にとって、川上御前は親しみと畏敬の念を抱く対象であり、和紙づくりの伝統とともに、いまも日々の暮らしに根付いている。
越前和紙の里の町並み。少し足をのばせば、池田町のかずら橋や日本の滝100選にも選ばれた龍双ケ滝、冠山など自然豊かな観光スポットを巡ることが出来る。
Crafts
ul washi 漆和紙 ノートブック

福井県の伝統的工芸品である「越前和紙」と「越前漆器」の技法を融合させた、自然素材のシリーズ。中にB5版の紙を二つ折りに挟んで使用できる。厚手の和紙に漆を浸透させることで強度が増し、傷や汚れが目立ちにくくなる。また、漆は酸やアルカリ、塩分、アルコールなどに侵されにくく、防水性、防腐性にも優れている。
ul washi 漆和紙 コースター

ul washi 漆和紙シリーズのコースター。和紙をコースターにするという、一見実現不可能なような素材と用途の組み合わせも、漆の力があってこそ。ノートブックと同様に4色展開で、A3サイズ(42×30cm)のランチョンマットもあるので、セットで使ってもおしゃれ。
耳付き封筒「笹」と耳付き封筒「楓」

多彩な紙漉きの技術の中でも、「漉き入れ」という伝統技術を用い、本物の笹、楓を紙の中に封じ込めた封筒。自然素材の風合いと手漉きならではのあたたかみとともに、随所に繊細さが感じられる一品。同シリーズの便箋も。
decor washi メッセージカード

decor washiは通常のエンボスとは異なり、越前和紙ならではの凹凸加工により、裏面の凹みがないのが特徴。手漉き和紙ならではの温かみのある立体表現が楽しめるメッセージカード。写真は日本の波模様と花を表現した「nami(波)」と、梅と鶴の融合が気高い「ume tsuru(梅鶴)」。オリジナル柄の作成も可能。
こもれびうちわ

アートディレクター、KOTOKO HIRATAによるプロデュース・デザインのうちわ。模様入りの透かし和紙(掲載面)と無地の和紙を組み合わせ、「こもれび」を表現している。一見するとシンプルな印象だが、光にかざせば、木の葉のシルエットがうかびあがり、「こもれび」をつくり出す。越前和紙は、山次製作所が制作を担当し、「京うちわ」の老舗、阿以波が仕立てを担当。一点一点、手仕事でつくられている。
JoYo カードホルダー 3A

‘JoYo'は、ul washi(前述参照)を応用し、ドイツ人デザイナーのヨルグ・ゲスナー氏とともにつくったステーショナリーシリーズ。和紙に漆を浸透させており、通常の和紙には出せない深みのある色合いと、独特の質感が特徴。名刺入れやカードケースとして使えるサイズ。
Photography KENGO MOTOIE
Edit and Text YURIKO HORIE
こちらの情報は『CYAN ISSUE 014』に掲載されたものを再編集したものです。