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ブランドのはじまり

サウスモルトン・ストリートにオープンした1号店(現在は閉店)

 モルトンブラウンの創業者であるハーヴィ・コリスは弱冠14歳でヘアスタイリストを目指し、ロンドンのヘアサロンで働き出した。ずば抜けた才能と独創性の持ち主だったハーヴィは、すぐにトップスタイリストまで登りつめた。その頃、客として出会ったカロライン・バースタインと意気投合し、結婚。二人は1971年に、ロンドンのメイフェア地区サウスモルトン・ストリートでヘアサロンを始めた。”全ての人は唯一無二の美しさを内面に持っており、ごく自然な手法でこそ、その美点が引き出される”という信念のもと、ナチュラルでオーガニックなアプローチにこだわった。サロンには、当時ではまだ珍しいベジタリアンカフェも併設されていた。彼らは他のサロンとは異なる全く新しいアイデアを取り入れたいと考え、ヘアスプレーやスタイリング剤に頼らない、より自然なヘアカットやスタイリング技術などを研究。”モルトンブラウナー”という画期的なツール(髪にカールをつけるための道具)を生み出したこともあった。
 そんな中で、サロンコンセプトに沿ったナチュラル思考のヘアスキンケア・スキンケアコンセプトプロダクトを作り始めたことはごく当たり前の流れだったかもしれない(これらは当然、モルトンブラウンの原点となる)。初期の製品は、手摘みしたハーブをハンドメイドでブレンドしたものだった。これらのオリジナルアイテムはまず顧客から人気に火がつき、自宅でも使いたいというニーズが急増。化学的な製品が全盛だった時代には珍しい多様な植物の成分を配合したアイテムは、ナチュラル思考の人々から高い評価を受けたのだ。一般販売を開始すると、一時は製品を求める人の長い行列ができた。このようにして、彼らのサロンとプロダクトの評判は瞬く間に広まっていった。

ドラマを感じる豊かな香り

ブランド規模が拡大するに伴い、モルトンブラウンは画期的な製品を続々と生み出していく。スタート当初はデイル・タクソンそいう女性がディレクターに就任。彼女は世界中を旅しながら香りやマテリアルのインスピレーションを得るなどし、モルトンブラウンの骨格を築き上げた(近年は気鋭の開発チームが彼女の精神を引き継いでいる)。
 1979年には、ブランド初のボディケア商品が誕生。このときから、エキゾチックな香りと効果性のドラマティックなバランスを探求する旅が始まった。現在では外部のパフューマーとも積極的にコラボレーション。心のより深いところに訴えかける新しい香りを生み出し続けるため、たゆまぬ努力が妥協なく続けられている。マス的な感覚で香りの良し悪しを判断するとパフューマーのクリエイティビティが損なわれてしまうため、調香前のオーダー時にはリーディングノートと原産地を伝えるのみ。あとは彼らの独創性に任せるのだ。そのためパフューマーとはとても深く長い関係を構築している。時に、先代の父親が担当した香りの改良を娘のパフューマーが担当するという、愛に溢れたエピソードも生まれるほどだ。

1985年に、いち早くメンズラインをスタート。シェービング、スキンケア、ヘアケア、フレグランスまで揃えたラインナップ。これらはグルーミング発祥の地とも言える英国の紳士から高い評価を受け、世界各国のジェントルマンに愛され続けている。

プロダクトが生まれるまで

ブランドがスタートしてからしばらくしの間は、モルトンブラウンの製品はサロンの地下で作られていた。イングリッシュハーブにこだわり、当時はまだ化粧品の原料としては使用されていなかった植物もいち早く取り入れられた。全てのアイテムには最高級の原料と成分をこだわり抜いて配合。非常に手間をかけて製造され、どのような状況下に置いても”メイド・イン・イングランド”にこだわり続けた。1986年には、ハートフォードシャー州のコテージに製造拠点を移転。自社ガーデンでハーブを育てて1996年、同じくハートフォードシャー州に、研究所・生産ライン・キャンドル専用のテスティングルームまで備えられたファクトリーを設立。今日に至るま様々な研究・商品開発が進められている。

革新的なホテルアメニティ

1989年、モルトンブラウンはホテルのアメニティラインを発表。きっかけは、当時のグローブナーハウスホテル(メイフェア地区にある有名なホテル)の支配人が店舗を訪れた際に商品を大変気に入り、ホテルのアメニティとして使用したいと熱望したことだった。当時のホテルアメニティは、安価で仕入れることのできる粗悪な業務品が当たり前のように使われていたが、モルトンブラウンはリテール商品と同じクオリティにこだわった。これは大変革新的な取り組みとして評価され、旅先での滞在をより豊かなものにしたいと望む富裕層やビジネスパーソンからさらなる支持を得るきっかけとなった。現在では世界中のラグジュアリーホテルにおいて、アメニティとして採用されている。
 その後も誠実な取り組みを続け、2004年にはアメリカに直営店をオープンし、グローバル化を加速。2007年には東京・丸の内にある新丸ビルに日本初の直営店をオープンした。さらに2012年にはエリザベス女王より英国王室御用達指定証を授与された。そして現在は世界70ヶ国以上の多様なチャネルにおいて、多くの人々のライフスタイルに寄り添い続けている。

ブランドアイコン

ブランドのアイコンとも言える「オレンジ&ベルガモット」は1984年に誕生。当時の名前は「バブリング オレンジ グローブ」で、今では当たり前となった”ラグジュアリーなハンドウォッシュ”というカテゴリーを切り開いた画期的なアイテムでもあった。それまでは衛生上の行為だった手を洗う時間を、五感に訴えかける豊かで幸福な時間に変えたのだ。誕生当初のパフューマーはマイケル・ピクタール。CPLというフレグランスハウスの創業者だ。彼はインスピレーション・クリエイティブの天才と言われたほどの才能溢れる人物だった。解放感が溢れ、輝きを放つ、この特別な香りは、誕生から30年以上に亘世界中で多くの人に愛され続けるベストセラーとなった。今年4月にはモダンな要素がプラスされた新アイテムも発表され、ますますの発展を遂げた当シリーズは、まさにモルトンブラウンの永遠のシグネチャーアイコンだと言える。
 モルトンブラウンは”香り”というフィルターを通して、私たちの生活を、より上質なものへと導く。香りは、五感の中でも最も深く記憶と結びつくものだ。香りを通じ、楽しい記憶や幼い頃の記憶、旅先の記憶がふと蘇る瞬間がある。モルトンブラウンが創業当初より大切にしている”パイオニア精神”溢れるアイテムと香りの数々は、これからも私たちをまだ見ぬ素晴らしい世界へと誘ってくれるだろう。

Edit & Text SHIHO TOKIZAWA
Web Edit KIKUNO MINOURA

こちらの情報は『CYAN ISSUE 018』に掲載されたものを再編集したものです。

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