next prev cart fb in line link open tw yt

 野山に咲く草花のような素朴な可憐さと、身につける人にスッと溶け込む柔軟さを持つジュエリーたち。
「寄り道だらけだったけれど、すべて必然だった」そう話すのは、fua accessory代表の木村久美子さん。意外にも30代前半までは、ものづくりとはほど遠い人生を歩んでいたという、「いわゆる “普通” の子どもだったんです。“みんなと同じ” ということをよしとする時代。息苦しさを感じながらも、『なんとか手に職をつけてほしい』という親の期待に応えることだけを考えて、高校では衛生看護科を専攻しました」。
 卒業後、晴れて准看護師としての一歩を踏み出したものの、自ら希望したわけではない道にとまどいを感じていたのだという。
「検査機関に就職したのですが、検査に使用した機械をただただ洗うだけの日々が続いていました。頭の中では “本当にこれでいいのだろうか” と、自問自答ばかりを繰り返していました」。

 その思いは24歳のころに爆発する。以前から恋焦がれていた映画の世界に入りたいと、ヘアメイクの学校に入学。
「母の反対を押し切って入学しました」という木村さん。自らが願って進んだ道、不器用ながらも授業についていこうと必死に取り組んでいたものの、ものにするのに苦労した。卒業後はヘアメイクとして独立するも、1年後に再び看護の仕事に戻ることに。
「私にはやっぱり看護しかないのかもしれないと、正看護師の資格を取得し、病棟での勤務がスタートしました。しかし、どうしても心がついてこず、精神を病んでしまったんです」。
 そうして、外出もままならない日々が続いたことにづと編み物のことを思い出した。
「物心ついたころから、毎日のように母が編み物をしていたんです。なぜかふっとその光景が浮かび、姪っ子にあみぐるみを編んでみようと作り方と毛糸を買いました。実際に編んでみると、無心になれるその時間が楽しくて楽しくて仕方なくって。手を動かすほどに、心がスッと軽くなっていくような感じがしたんです。想像以上にうまくあみぐるみが完成したという小さな成功体験と相まって、すぐに編み物のとりこになりました」。

藤井麻利絵さんの点描画

「この絵を眺めては『私も麻利絵さんのように、たくさんの人に見てもらえる作品をつくろう』と、自分を鼓舞しています」

 その後、編み物によって心のバランスを取り戻した木村さん。 “編む日々” が始まった。と、同時に、めぐりあわせによって木村さんの運命が変化していくことになる。
「近所を散歩していた時に、素敵なお店を見つけたのでふらっと立ち寄ってみたんです。そこで、のちにfua accessoryのスタッフとなる店主と落水さんと出会いました。私の編み物作品をお店で取り扱ってくれることになったんです」。そうして2010年、fua accessoryの前身となる「風亜」が誕生しました。
「そのころ制作していたニット小物は、まだまだ人様に身につけていただけるようなものじゃなかったんです。落水さんからさまざまなアドバイスをもらいながら、作品をより質の高いものへと改良しました」。
 けれども、実際に自身の作品を販売するうちに、手編みのバッグやマフラーを購入する層はとても限られているということに頭を抱えるようになる。
「年齢を問わず、もっとたくさんの人に身につけてもらえる編み物作品とはなんだろう、と考えたんです、そして “ジュエリー” と呼べるような作品を、編み物で作ってみようと考えたんです」。

アンティークの糸巻き機

機織りをしているスタッフの私物。スタッフの人数分の糸を仕分けるのに使っている

 そこから、さまざまな糸やビーズなどを組み合わせながらの試行錯誤が始まる。完成しては落水さんに見せることを繰り返し、何度も改良を重ねた。思い描いていたものが形になったころ、木村さんは第二子を妊娠中だったにもかかわらず、自身の作品を持って何軒も売り込みにまわったのだという。
「門前払いに近い状態で断られることも多かったですね。けれども、その悔しい思いをバネにして、ポジティブな方向に切り替えていました」。

時と空気を編んでいく

ビーズと糸で生み出される立体的なジュエリー。白いビーズを使ったシリーズは、まるでかすみ草のように軽やかな印象

“時や空気、思いまでをも一緒に編み込んで完成する編み物のジュエリー”

 そうして、2012年に誕生したfua accessory。「時と空気を編み込む」をテーマにさまざまな作品を生み出しています。
「fua accessoryの作品は、アトリエに漂っている空気や、編み手の思い、そのすべてを一緒に編み込んで完成するんです」と、木村さん。そのため、落ち込んでいる時や、心がギスギスしている時などは作業をしないと決めている。
「現在は卸しを行っておらず、対面販売のみにしているんです。直接お客さまの目を見ながら説明し、私たちの手からお渡しすることで、絶対に伝わるものがあると思っているからなんです」と木村さん。
 その思いとともにジュエリーは誰かの手へと渡り、また新たな「時」を重ねていくのです。

fua accessory のジュエリー

時に花嫁さんを美しく彩り、時にお年を召された方の肌にもスッと馴染む。世代やシーンを超えて愛されるジュエリー

Photography KIYOSHI NAKAMURA
Edit & Text ERIKA TERAO

こちらの情報は『CYAN ISSUE 020』に掲載されたものを再編集したものです。

SERIES