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ABOUT

 広大な山地や、森林、湖、河川など、豊かな自然に囲まれた北海道。この土地に先住していたアイヌ民族は、自然に畏敬の念を抱き、共生しながら独自の文化を育んできた。彼らはその土地で得られる様々な自然素材を用いて、衣服や装身具、生活道具や儀式用具などを作った。

二風谷の近くを流れ、アイヌ文化を育んてきた沙流川。

 北海道の太平洋側、日高地方に位置する二風谷は、アイヌ発祥の地ともいわれる沙流川を擁し、今も色濃くアイヌ文化が根付いている土地である。そんな二風谷地区で100年以上前から伝わる木製の盆「二風谷イタ」と反物「二風谷アットゥシ」が、2013年に国の伝統的工芸品として指定された。全国に232品目(2018年11月現在)ある伝統的工芸品だが、北海道ではこれらの2工芸品が初の指定となった。
 二風谷イタは、クルミやカツラなどを乾燥させた木材が用いられ、全面にアイヌ文様が施されるのが特徴だ。渦巻きや棘、目をイメージした3種の伝統的な文様と、その間を升目状に刻んだ鱗掘りが基本となる。配膳の際に皿などをのせるための盆として用いられてきた。
 二風谷アットゥシは、アッニ(オヒョウ)やシナノキの樹皮の繊維で織られた布。アイヌ文様を施した衣装として利用されてきたほか、現在では着物の帯やスカーフ、テーブルセンターなどの小物にもアレンジされている。

様々な生活用具が並ぶ平取町立二風谷アイヌ文化博物館の展示の様子。

 二風谷民芸組合は、二風谷の職人たちを中心に組織され、アイヌ工芸の継承や、現代のライフスタイルを取り入れた商品の開発など、幅広い活動を行っている。二風谷の博物館と資料館をつなぐ「匠の道」には、伝統を受け継ぐ職人の工房や民芸店、アイヌの伝統的家屋「チセ」などが並び、アイヌの歴史や文化を間近で体感できるスポットになっている。
 現代までアイヌ文化が継承されてきた平取町二風谷地区。「二風谷」という地名は、そもそもアイヌ語の「ニプタイ(木の生い茂るところ)」などが由来と言われている。沙流川地域では、復元された「チセ」を中心に、儀式・儀礼や祭り、アイヌ語、口承文芸、生活用具、そして工芸品の技術などが現代まで大事に受け継がれてきた。二風谷の職人たちによって支えられてきた「二風谷イタ」「二風谷アットゥシ」は、ともに材料の採取から数えると、完成までに長い月日を要する。

貝沢民芸を営み、二風谷民芸組合代表理事も務める職人、貝澤守さん。工房での二風谷イタの制作風景。

 二風谷イタは、原木を板状に製材したあと、強度を高め、変形を防ぐために3〜4年乾燥させる。板の表面を平らにし、製品に合わせたサイズに切断したのち、型取りが行われる。要となる作業の「文様彫」では、下絵を描き、線彫りを行ったのち、表情をさらに豊かにするために、くぼみや二重線が入れられる。アイヌ文様が完成した後は、隙間を埋めるように鱗彫が施され完成となる。伝統的な実用品として長年アイヌの人々に親しまれてきたが、現在ではインテリアや小物などとしても広く活用されている。

職人、貝澤雪子さんによるアットゥシ織りの様子。貝澤さんは、アイヌ文化の伝承、後継者育成に取り組むほか、2018年にポーラ伝統文化振興財団から「伝統文化ポーラ賞」を受賞するなど、アットゥシの認知度向上にも寄与している。

 二風谷アットゥシは、沙流川流域に自生するオヒョウやシナノキなどの広葉樹が原材料として用いられてきた。まず、樹皮を剥いで内皮を乾燥させ、灰汁などを使って煮ることで皮を柔らかくする。2mm程度の幅に裂いて糸状にし、機結びによって紡いだ糸に撚りをかけ、そしてアットゥシカラペと呼ばれる機織り機を使って織っていく。このように、糸を紡ぐだけでも1ヶ月以上かかり、いくつもの工程を経て製品となる。アットゥシは天然繊維でありながら耐久性に優れているため、現代のライフスタイルに適した用途でも活用されている。

二風谷には、復元されたアイヌの伝統的家屋「チセ」が立ち並ぶ。

 工芸品としての用途を少しずつ変えながらも、自然への深い知識に根ざした技術が、今もアイヌの人々の思いとともに二風谷の地に生き続けている。

CRAFTS

洲崎春男 イタ(角盆)、イタ(長盆)

沙流川流域に古くから伝わる木製の平たい盆のこと「二風谷イタ」と呼ぶ。渦巻き状の「モレウノカ」(静かに曲がる形)や、文様と文様の間をうめる「ラムラムノカ」(鱗の形)など、彫りによって独特な装飾が施されている。角盆 ¥15,000、長盆 ¥4,500

洲崎春男 チシポ

アイヌの伝統民具「チシポ」は、女性が首から下げる針刺し。衣服を仕立てたり模様を入れる際に欠かせない針だが、アイヌ民族は元々、金属は持たず、交易で入ってきた鉄製の針は貴重だったため、チシポの中に入れて大切にしていた。木製部分には美しい文様が見られる。¥15,000

貝澤 守 コースター 丸・角

二風谷イタに用いられるアイヌの伝統文様「モレウノカ」「アイウシノカ」「シクノカ」や、文様と文様の間をうめる鱗彫りの装飾「ラムラムノカ」をレーザー加工で精密に再現。使うほどに木材ならではの味が出るコースター。各¥1,200

洲崎春男 チシポ風ピアス

アイヌの伝統民具「チシポ」をより手軽に身近に感じることができ、ファッションとしても楽しめるピアス。精巧なて彫りが施された一品。¥6,019

藤谷るみ子 アットゥシ テーブルセンター / アットゥシ付 巾着

オヒョウなどの樹皮の繊維で作った糸を用い、アットゥシカラペとよばれる機織り機で織られた反物を「アットゥシ」という。水に強く通気性にも優れている。アットゥシ テーブルセンター ¥30,000、アットゥシ付巾着 ¥2,500

貝澤雪子 アットゥシピアス

二風谷で一世紀以上も受け継がれてきた伝統技法を用い、ひとつひとつ丁寧に織ったアットゥシを、現代のライフスタイルに合わせてアレンジ。見た目も可愛らしいピアスは、軽いつけ心地で、耳元のアクセントに。各¥2,500

高野啓子 額入りアイヌ文様刺繍

アイヌの人々が身に纏う衣服や、生活道具、儀式用具などに描かれるアイヌ文様。ゆったりと渦を巻く様子が力強い「モレウノカ」と、棘のある形の「アイウシノカ」が組み合わさった文様を刺繍で表現した。¥6,000

貝澤雪子 アットゥシ 札入れ / アットゥシ 名刺入れ / アットゥシ 小銭入れ

アットゥシ織りを半世紀以上にわたり手がけている職人、貝澤雪子さんによる小物。キハダの樹皮やアカネ、クルミなどの身近な草木花で染めることで、淡く繊細な色合いが表現できる。染色した糸を美しく織れるのは、熟練の技術があってこそ。札入れ ¥12,000、名刺入れ ¥5,000、小銭入れ ¥2,500

Photography KENGO MOTOIE
Edit and Text YURIKO HORIE

こちらの情報は『CYAN ISSUE 020』に掲載されたものを再編集したものです。

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