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Frankincense

灼熱と渇き、過酷な環境ゆえの 神々しい香りとタフな生命力

学名:Boswellia thurifera
科名:カンラン科
和名:乳香
主な産地:中東地方、アフリカ北西部など

 中世の頃のフランス語で “真実の香り” という意味を持つフランキンセンス。スパイシーでありながら、刺激的というよりは、瞑想感のある穏やかさでクリーミィに香りが広がる。気持ちをリラックスさせるだけでなく、落ち着きとアクティブさのバランスをとってくれるような、知性的な香りでもある。
「フランキンセンスは、古くからメディテーションや、キリスト教をはじめとする宗教儀式によく使われてきた香りです。通名が3つほどあり、フランキンセンスのほかに、和名の乳香、ラテン語で “レバノンのオイル” を意味するオリバナムという呼び方もあります。イスラム教やカソリックの礼拝堂で、振り香炉にフランキンセンスを入れて香りを燻らせる時に白い煙が立ち上るので、そこから “乳の香り” という呼ばれ方になったともいわれています。また、フランキンセンスの実体は樹液が固形化した樹脂です。木の皮を傷つけてポタポタと垂れ落ちてくる白い樹液の様子が、乳を思わせるから “乳香” という説もあります。主な産地は北アフリカで、ケニアやソマリア、オマーンやヨルダン、エチオピアといった、やや乾燥した地域が生育に適しています。」
 かつては香料の国と呼ばれたシバ王国があった、オマーンのフランキンセンスはとくに上質だそう。紀元前に乳香の貿易で栄えた名残が残るオマーン南部、サラーラ周辺は「乳香の道」として世界遺産にも登録されている。

暑く乾燥した地域で育つカンラン科の低木。専用のナイフで樹皮を削り、木肌を剥がすとじんわりと樹液がにじみでてくる。樹液は、最初のうちはガムのように柔らかく、1週間から2週間ほどでしずく状の連なりを成して固まりはじめる。固まってきた樹脂をナイフで削ぎおとした直後の乳白色の見た目は “砂漠の真珠” とも呼ばれ、ミルキーな香りを放っているとか。そこから時間を置くことで徐々に琥珀色の樹脂となり、フランキンセンスの精油はこの樹脂を水蒸気蒸留することで抽出される。

 フランキンセンスは、宗教儀式やメディテーションのためのお香としてだけでなく、美容のためにも活用されてきた。精油の香りを嗅ぐと呼吸のリズムは深くゆっくりと導かれ、肌から吸収すれば若々しい細胞づくりを応援してくれる。
「ローズをはじめ、香り使いの上手さが逸話として語り継がれている古代エジプトの女王、クレオパトラはフランキンセンスをフェイシャルパックに使っていたという記録があります。クレオパトラは当時、フランキンセンスの木をプント王国(現在のエチオピア周辺)からわざわざ輸入していたそうです。」
 私たち現代人がその効能を取り込むなら、例えばお手製のハンドクリームに精油をブレンドすれば、香りを楽しみつつ衰えの出やすい手肌のカサつきを積極的にケアできる。また、風邪っぽくてなんとなく呼吸がしづらい時、小さじ 一杯(5ml)のホホバオイルやアーモンドオイルなど希釈用のオイルに精油を1滴落とし、胸元や足をマッサージして体内に取り込むのもおすすめだそう。

Myrrh

不老の夢に近づく自然薬であり 霊性すら感じる奥深い香り

学名:Commiphora molmol
科名:カンラン科
和名:没薬
主な産地:中東、エジプト、アフリカ東部など

「ミルラの和名は “没薬” ですが、ポルトガル語で没薬を意味する mirra は日本語のミイラの語源といわれています。エジプトにおいて、ミイラ作りは魂が戻ってくるための体の形を残すためのものでした。そのため、ミルラなどの植物を防腐剤として、腐敗を防ぎ乾燥させる目的で用いていました。エジプトにはキフィという朝晩の祈りの時間に焚かれる有名なお香があります。古代では神官だけが扱えた聖なるお香で、ミルラはその材料のひとつでした。ミルラの精油はエチオピア産やソマリア産が一般的。フランキンセンスと同じ様に樹脂から抽出します。精油には殺菌、消毒、抗ウィルスのほか、鎮痛作用を持つオイゲノールや、シナモンにも含まれるシンナミックアルデヒドという化学成分を含んでいるため、ちょっとした頭痛や消化不良のケアにも使われます。」
 また、優れた抗酸化作用によって日焼けの後の肌ケア、シワやシミの予防などスキンケアでも力を発揮。ひび割れやあかぎれといった乾燥に由来するトラブルのケア、ナチュラル成分による口腔ケア製品にもよく配合されている。

Cedarwood

神殿や寺院づくりの建材として 古くから用られてきた神聖な木

学名:Cedrus atlantica
科名:マツ科
和名:アトラススギ
主な産地:モロッコ、アルジェリアなど

 紀元前900年頃、古代イスラエルに存在したソロモン王の神殿づくりや、現在のイラクの砂漠地帯に紀元前600年前後に建造された屋上庭園『バビロンの空中庭園』などに用いられていたという神秘の樹木、シダーウッド。
「シダーウッドは、非常に防腐作用に優れているんです。エジプトのツタンカーメン王のお墓を開けた時、棺の素材として使われていたシダーウッドの残り香がふわりと漂ったというエピソードもあるほど。心身の機能を回復する働きがあり、木の部分そのものも医薬品として用いられていたようです。ただ古代に使われたのはレバノン・シダーで、伐採が進み過ぎたため今はなんとか元に戻そうという流れにあり、現代ではその近縁種であるアトラス・シダーが一般的です。精油は、全体の大半がリンパや神経系を強壮したり、心を穏やかにする化学成分が占めており、その香りは地に足をつかせてくれます。」
 シダーウッドの精油は香水づくりのベースノートとして、花や柑橘の香りとも好相性。アトラス・シダーのほかにはヒノキ科で木屑のような香りが特徴的な北米産のバージニア・シダーなどがある。

Juniper Berry

悪いものを流し去ってくれる ジンの香りづけでも有名なハーブ

学名:Juniperus communis
科名:ヒノキ科
和名:セイヨウネズ
主な産地:フランス、イタリア、ハンガリーなど

 ジュニパーベリーはいらないものを追い出す、“心身の浄化” を得意とする植物。主要な産地は北半球に広く分布しており、古代では寺院などで儀式の時に使われていた。
「フランスではその昔、コレラや黒死病などの疫病が流行った時に消毒薬の代わりとして病院の病棟でローズマリーの枝葉とジュニパーベリーを焚いていたそうです。実際、ジュニパーベリーの精油に含まれる化学成分の大部分は殺菌や消毒の作用を持つ成分。泌尿器系の疾患や痛風、リウマチ、呼吸器系の障害の治療にも用いられていました。ジュニパーベリーは水分代謝を促す働きにも優れています。ハーブティーなども利尿効果が高く、腎臓のトラブルがある方は飲用を控えたほうが良いといわれるほど。ハーブティーの味が苦手であれば、精油をバスソルトやバスオイルにブレンドするのも良いと思います。」
 ダイエットから風邪の予防まで、一本持っていると重宝する精油のひとつだ。
 寒さの厳しい国で育ちやすく、新陳代謝を刺激するような作用も持つジュニパーベリー。数百年前からジンなどのリキュールの香りづけに使われてきたのも、食欲を刺激する作用ゆえと考えられている。
「ドイツでは、料理の臭み消しも兼ねて、塩漬けにしたジュニパーベリーを豚肉にはさみこんだり、ザワークラウトに入れるといった使い方が親しまれています。アルコール類の化学成分などを含み、その精油も体を温める作用に優れています。ジュニパーベリーが持つ、流す+温めるの働きはボディケアにおいて非常に有効です。マッサージオイルにブレンドすることで、冷えからくるむくみの緩和やファーミング、筋肉の疲れなども和らげてくれます。」
 精油は、果実を粉砕して乾かしたもの(液果)から水蒸気蒸留で抽出。枝葉から抽出される精油もあるが、香りや質の面では果実から抽出する精油よりも劣りがちで、アロマセラピーで使用されるジュニパーの精油といえばジュニパーベリーの精油を指す。1kgの精油を得るには、液果が約500kgは必要となり、精油としては高価な部類に入る。皮が柔らかく汁気を含んだ黒い果実が放つ、ジューシィで甘酸っぱそうなイメージとは裏腹に、ヒノキ科の植物なのでその香りは清々しい草木系のウッディノート。ほのかな苦味を含んでいるためユニセックスな香りや男性化粧品への利用にも向いている。

Teaching from…

鎮西 美枝子先生(ニールズヤード レメディーズ)
ホリスティックスクール ニールズヤード レメディーズ講師、AEAJ 認定アロマセラピスト、AEAJ 認定アロマセラピーインストラクター、JAMHA 認定ハーバルセラピスト、JAMHA 認定ハーバルプラクティショナー。アロマセラピーの歴史についての造詣の深さはもちろん、 エッセンシャルオイルを用いた調香にも詳しい。 

ホリスティックスクール ニールズヤード レメディーズ
アロマセラピースクールの先駆として、 1996 年に開設。現在は表参道校・大阪校があり、精油やハーブを用いた自然療法を本格的に学べる資格取得の講座から、実践しながら楽しく学べる1Day講座まで、充実した講座内容が魅力。

Edit SATORU SUZUKI
Text KUMIKO ISHIZUKA

こちらの情報は『CYAN ISSUE 021』に掲載されたものを再編集したものです。

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