大館曲げわっぱの起源に遡ると、きこりが杉柾(すぎまさ)(木目がまっすぐに通った杉材)で曲物をつくったことがはじまりだと言われている。のちに藩政時代の大館城主の佐竹西家が、領内に豊富に生育していた秋田杉に着目。武士の副業として曲げわっぱの製作を奨励したことで、産業として発展。製品が新潟、関東などへ運ばれることで、普及していった。

大館曲げわっぱを製造する「柴田慶信商店」は、柴田慶信によって 1966(昭和 41)年に創業された。1986(昭和 61)年にはパリ伝統工芸展で実演するなど、国内外を問わず積極的に発信を続けてきた。伝統的工芸品に指定された 1980 年当時は売れ行きが好調だったものの、その後プラスチック製品が台頭。大量生産・大量消費のスタイルへ社会が傾き、需要が低迷した。そのような状況下において、一時期は利便性を追求し、ウレタン樹脂加工を施していたこともあったという。しかし、初代自らが白木(塗料を塗らない状態の木材)のよさを損ねてしまっていることに気づき、創業当初の原点に回帰。秋田杉の香りや吸湿性、抗菌効果をいかすため、素材そのものの長所を引き出す「白木」にこだわり続けた。
創業から 50 年以上たった現在は、伝統工芸士でもあり2代目の柴田昌正氏を筆頭に、職人たちがものづくりを続ける。近年では、プロダクトデザイナーの大治将典氏をむかえ「マゲワ」シリーズを発表するなど、伝統を重んじながらも現代のライフスタイルに寄り添った新たな形を提案している。

大館曲げわっぱを語る上で不可欠なのは、原材料の秋田杉だろう。一口に秋田杉と言っても、厳密には天然杉と造林杉が存在する。日本三大美林のひとつである「天然秋田杉」は、主に米代川流域に生育し、標準的樹齢は 200〜250 年といわれている。曲げわっぱの原材料としては、古くから「天然秋田杉」が用いられていたが、森林保護の観点から 2013(平成 25)年3月をもって計画伐採が終了した。現在、柴田慶信商店では樹齢 150 年以上の天然杉のみを使用。 秋田のものだけでなく、岩手、青森、山形など、近県の天然杉を仕入れている。

大館曲げわっぱの製造工程は大きく5つに分けられる。
はじめに行われるのが「製材・はぎ取り」だ。柾目の美しさが製品の出来を左右するため、慎重に製材される。そして5mm ほどの厚さに挽いたのちに両面をかんながけし、重ねた際に他と厚みが揃うよう板の端は薄く削られる。

2つめの工程が「煮沸」だ。薄く加工した木材を一晩ほど水につけておき、次の曲げの加工に入る前に 80°Cの湯で煮沸し、曲げやすい状態にする。薄板の状態が整ったところで続いて行われるのが「曲げ」である。「コロ」という型に巻き込むようにして曲げ、重ね合わせた部分を仮止めして乾燥させる。7〜10日ほど木材を乾燥させたら、接着材で接着し、底入れ・組み立て・仕上げが行われる。この工程では、蓋板(もしくは底板)を入れ込み、接着してヤスリをかけて形が整えれられる。そして最後に、目通し錐(平らな針)を用いて「樺綴じ」を行えば完成だ。接合部を山桜の皮で縫いとめることでより強度が増すとともに、デザイン的魅力が備わる。

これらの工程は、曲げわっぱが生まれた当時の技法そのものが職人たちの間で代々引き継がれている。自然が生み出す機能と造形とを最大限にいかしたものづくり。まさに用の美を体現する伝統的工芸品のひとつだといえる。
CRAFTS
白木 バターケース 丸

白木 丸三宝 四寸

白木 おひつ 五寸 / 白木 飯器 六寸

シバキ 入れ子弁当箱 三段

白木 おむすび弁当箱 三角

Photography KENGO MOTOIE
Edit and Text YURIKO HORIE
こちらの情報は『CYAN ISSUE 022』に掲載されたものを再編集したものです。