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石川県加賀市を主な産地とする「山中漆器」。その歴史を遡ると、16世紀後半、加賀市山中温泉の上流に位置する「真砂」という集落に、木地師の集団が移り住んだことが起源であるという。その後、技術が山中温泉付近に定着し、湯治客の土産物がつくられた。江戸中期になると、塗りや蒔絵の技術を導入し、木地だけでなく塗り物の産地としても発展をとげてきた。
山中漆器の代名詞となっているのが「轆轤(ろくろ)挽き」だ。「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と並び、「木地の山中」と称され、石川県の三大漆器産地の一つとして、轆轤挽物木地の分野では、全国的にもトップクラスの技術を誇る。特徴として、繊細な縞模様をつくる「千筋(せんすじ)」や「象嵌(ぞうがん)」など、加飾挽きの技術・技法を使った品が挙げられる。

また、他産地では、年輪と垂直方向になるように木材を切り出す「横木取り」が主流であるのに対し、唯一山中では平行に切り出す「縦木取り」が行われている。木の成長方向に逆らわないため歪みが出にくく、薄挽きや蓋物など、繊細な仕上げが必要になる形状の物でも、高い精度で仕上げることができる。木地に装飾的な模様を施す加飾挽きが可能なのも、縦木取りを行なっているからこそなのだ。

1908(明治41)年に山中温泉で創業した我戸幹男木工所(現:我戸幹男商店)。創業以来、木地師の意思を代々受け継ぎ、天然の素材の魅力をいかした漆器をつくり続けてきた。伝統の技術を守りながらも、デザイナーとのコラボレーションに積極的に取り組み、現代のライフスタイルに馴染むモダンな商品を数多く展開。また、国内外のデザイン賞を多数受賞するなど、海外での普及活動にも力を入れている。

木地師によって支えられている山中漆器。木地の材料には、地元産のケヤキやミズメ、トチ、ヤマザクラなどが主に用いられる。
漆器の完成までには様々な工程を経るが、それぞれの工程は、木地師・下地師・塗師・蒔絵師など、その分野を専門にした職人たちの分業によってつくられている。
はじめに、原木の切り出し、製材、縦木による木取りが行われ、その後、荒挽きをする。これは、仕上がりよりも6〜9mm 程度余分に残し、乾燥しやすい型に轆轤で挽く工程である。その後、1ヶ月半〜2ヶ月程度乾燥させ、水分を抜く。水分が12% 程度になったところで中荒挽きを行う。仕上がりの3mm 程度余分なところまで挽いていき、さらに1ヶ月半〜2ヶ月程度かけて乾燥させていく。時間をかけて2度乾燥させることで、湿度による膨張や収縮がほとんど起こらなくなる。最後に形を整える仕上げ挽きをして、木地が完成する。その後、品によって、加飾挽き、拭き漆、塗り、蒔絵などの工程が行われる。

山中漆器で多く見られる拭漆仕上げ(木地の木目をいかした仕上げ方)は、木地の仕上がりが品の良し悪しを決定すると言っても過言ではない。そのため、職人たちは木肌をいかにきれいに仕上げるかということに注力する。仕上げ方によって道具を変えるため、数十本の鉋(かんな)や小刀(こがたな)を使い分ける必要があり、鉋そのものを木地師自らが作るのだという。それゆえ、職人によっても道具の形が異なる。


熟練の職人たちの技術の集約によって生まれる、山中漆器。我戸幹男商店が掲げる「天然素材が生み出す美しい木目、木地師が丁寧に挽き上げた木地の完成度を重んじる」という理念や信念も、手に取り実際に使うことで、感じとることができるだろう。
CRAFTS
KARMI 菱 (Fuki)、頸 (Fuki)

SINAFU 布袋(Smoke Grey) 羽反(Black)

KISEN 波、段

MUSUBI 空気、水

TURARI 日輪、蕾、雫

TOHKA ブリュット、ロゼ

Photography KENGO MOTOIE
Edit&Text YURIKO HORIE
こちらの情報は『CYAN ISSUE 021』に掲載されたものを再編集したものです。