ディルのような細かい葉はフレッシュハーブとして、細かくて香りの強いシードはスパイスして使われるフェンネル。葉とシード、そして茎、品種や時期によっては花さえも食べられる、とても優秀な植物です。

日本ではインド料理店などで、しばしば食事の後の口直しにフェンネルシードが出されます。そのため、「フェンネル=アジアのスパイス料理のお供」という印象も強いですが、実のところ原産は地中海エリア。古代から、どこの道端にも生えているような庶民的な野草として知られていました。セリ科の多年草で、すっとまっすぐに2m もの高さにまで大きく育ち、ちょうどレースフラワーのような見た目の黄色く繊細な花がつくため、古くから園芸用としても親しまれています。
私たちが「シード」と呼んでいるのは、実は種ではなく実の部分。花が開く前に刈り取って、乾燥させて収穫します。地中海から古代ローマやエジプト、中国を経て日本にやってきたフェンネルは、中国で「茴香」と呼ばれていました。これは魚の香りを回復することからその名が付いたという説があり、原産地でも「魚のためのハーブ」と呼ばれていたほど、葉もシードも、魚の生臭さを取るとして世界中で愛用されていました。
セロリや玉ねぎとブロッコリーの中間のようなコリコリとした食感で、植物の根っこがカブのように膨らんだルックスの茎の部分は「フィノッキオ」と呼ばれ、イタリアンレストランやビストロではよく目にする食材です。少し手に入れづらくクセのある食材ですが、アレンジ次第でサラダやポタージュ料理などの定番料理に新鮮な風味をもたらしてくれるかもしれません。

消臭効果のほかに、消化促進や、胃腸に溜まったガスを除いてくれるデトックス効果があるフェンネル。利尿・発汗作用があるとも言われ、古くから「ダイエットに効果のあるハーブ」とされてきました。ほかにも、北米更年期学会(NAMS)によると、女性の更年期障害によるほてり(ホットフラッシュ)や不眠・不安の改善に効果があるという調査結果があるのだそうです。その独特な香りはアニスや甘草にも似て、実際にフェンネルの芳香の主成分は、アニスにも含まれる「アネトール」であり、このアネトールは女性ホルモン(エストロゲン)と同じ働きをするフィトエストロゲンを豊富に含むため、女性におすすめのハーブと言えそうです。
他にもメジャーな漢方薬に入っていることでも知られており、胃痛や胸やけ、胃もたれ、食欲不振等に用いる「安中散」や咳止め、胃薬、そして口をリフレッシュさせる効果から仁丹にも入っています。
種も茎も葉も、花までも。 栄養豊かな、ハーブの優等生。
Fennel
フェンネルは精油として使う際も、薬草として食べた時と同様の効果を期待されます。健胃やデトックス、体のめぐりを良くするなどの目的で、アロマを焚く人が多いそう。また、その独特な甘い香りから「食欲をコントロールする」とも言われ、過度な食欲の抑制や、その逆で食欲不振の改善にも効果があると言われているようです。
料理としても、アロマとしても。何かにアクセントを付けたり、推進させるといった “プラスワン” の要素をもたらしてくれるフェンネルは、現代人にとっても暮らしに爽やかな新鮮さを呼び込んでくれる、れっきとした薬草であることは間違いなさそうです。

Photographer SUGURU KUMAKI
Food Styling YUKI YAMAZAKI
Edit & Text KAORU TATEISHI
こちらの情報は『CYAN ISSUE 022』に掲載されたものを再編集したものです。