高円寺にひっそり佇む『新しい人』には、仕入れや物々交換などを経て集まってきたモノがところ狭しと並んでいる。しかし、古道具屋、古着屋、ガラクタ屋、リサイクルショップ… そのどの言葉も当てはまりそうで、それだけでは語りきれない。そんな場所の入り口で私たちを迎えるのが、店主の “小池ん” こと小池雄大さんだ。
店は独自通貨『こい券』での取引

「時空が歪んでるってよく言われますね。自分は基本的にずっといるので、もう感覚がマヒしちゃってますけど(笑)国とか年代で店を縛ったら説得力も出るだろうけど、そういう店だったら僕じゃなくてもできるし、僕にしかできないことをやりたかった。もっとフラットにモノを見たい。余計な情報なしにモノを見て、かっこいいって思えるか。今までだったら、このブランドはうちではないなって省いてたものが、あれ?かっこいいじゃんって見えることがあって、そういう感じで僕なりの “スーパーフラット” っていう目線でやっていこうと思っています。
それから、“ワールドリミックスプレイヤー” っていうのを自分の肩書きとして背負い始めたところです。もっとデタラメでいいんじゃないか、自分の好きなようにリミックスしていいんだって。服についてもそうですけど、時間や自分を取り巻く環境も好きなようにチョイスして、自分の生きる時間を自分なりにカスタマイズしていくこと。テンプレのコピペじゃなくて良い……っていうか(笑)デタラメだけどなんか楽しいよねって感じでやっていきたいです。」
想像を掻き立てられる4つの器

そもそも『新しい人』を開いたきっかけとして「消費するだけの経済の回し方は今後ナンセンス。すでにあるものを回すことで、経済が発展はしなくても循環くらいはするんじゃないか?」という思いがあった。新しいものをゼロから作り出すわけではないけれど、すでにあるものを自由に組み合わせて新鮮さを生み出す。そんな『新しい人』の在り方に、小池さんはヒップホップという音楽を重ね合わせた。
「もともとヒップホップは好きだったんですけど、店を始めてからますます聴くようになって。在りモノを使ってどうやって新鮮さを出していくかっていう点において、店と相性がいいんですよね。自分の時間、人生もそういう形でいろんな情報とかモノや人の関係、全部リミックスして機嫌よく過ごせたらいいんじゃないかな?なんて。」
くすりと笑えるチケットとショッパー

小池さんのヒップホップへのシンパシーは、“かっこよさ” という視点からも語られる。
「ヒップホップの好きなところは、“スキルとセンスで全部突破せよ!”っていう。僕にとっての “かっこよさ” ってそういうところで、特別な事をしているわけじゃないのに、それが特別になってしまうっていうのがかっこいい。たとえば僕は字を書くのが好きなんですけど、それもかっこいいって言われるところまでやれたらいいなって。」
小池さんが書く字は、たしかにかっこよくて、思わず目を奪われてしまう。一見絵のようにも見える字は、『新しい人』の看板や値札からイベントのフライヤーまで、あらゆる場所で使われている。
「仕入れてくる器なんかもそうなんですけど、替えのきかなさにたぶん惹かれてるんです。綺麗な字っていうのがあるけど、僕の字の方向性は綺麗さとかじゃない。……バイブスなんですよね(笑)綺麗じゃなくても、かっこよければいいかっていう。」
修理屋でのアルバイト時代には、オーナーに字が汚くて読めない、とたびたび怒られていたそう。しかし小池さんは「字を書くのは楽しい!」と語る。ネガティブな評価を受けてもなお、それをポジティブな要素に昇華させられたのはなぜなのだろう。
“人の評価をある程度 吹っ切れるようになった”
「目で見たときの余白と字のバランスとか、しかもこの字はこの一回しか書けないっていうのが楽しい。その楽しさにはっきり気づいた瞬間があったわけじゃないけれど、強いて言えば肯定なのかな。不完全な自分も肯定しちゃうというか(笑)本来なら汚い字は恥ずかしくて見せられないっていう人もいるかもしれないけど、完璧なものだけがいいわけじゃない。デタラメが魅力的なこともあるし、陶器とかも欠けていた方がよく見えることもある。」
画一的なものや同じものが並ぶ光景にはあまり惹かれないという小池さん。人間の体温が感じられるもの、替えがきかないものとの出会いを大切にしている。字を書くことや仕入れも、その時々の自分が現れるからこそ、「自分調子どう?」と問いかける窓口になっているのかもしれない。
力の抜けたポジティブな言葉

『新しい人』という場所を作ることを「世界中に散らばったかっこいいピースをひたすら探して、完成形も見えないまま組み立ててみてる途中で、またピースが欠けて…… っていう完成するはずのないパズルで遊んでる感じ」と小池さんは表現した。遊ぶようにモノを集め、時にユーモアあふれる字を書く、その中で自身が大切にしていることを最後にうかがった。
「なんとなくポジティブっていう要素は、全体的に大事にしています。言葉を書くにしてもネガティブな言葉はなるべく書きたくない。『気にすんな』とか、ちょっとだけ前向きな感じで出していきたいです。くだらなくて、ちょっとバカっぽいのも好き。力の入ってないポジティブさ、寝っ転がってる感じというか、シャキッ!としてるよりかは、お昼寝のようなのポジティブさが好きです。」
Photography MIE NISHIGORI
Edit & Text TOKO TOGASHI
こちらの情報は『CYAN ISSUE 023』に掲載されたものを再編集したものです。