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フェンネルに似た小さな花をつける、キャラウェイ。和名も、フェンネルは「茴香」キャラウェイは「姫茴香」と書くように、しばしばフェンネルと比較・対比されることの多いスパイスです。

キャラウェイは西アジア発祥の植物ですが、アルファベットやラテン文字、アラビア文字などあらゆる言葉の元となったフェニキア文字や優れた航海術など、数多の知恵を持っていたとされるフェニキア人がその存在をヨーロッパに広く伝えたと言われています。その彼らのお陰か、キャラウェイは発祥地から遠く離れたドイツの伝統的な発酵食品であるザワークラウトに欠かせないスパイスとして知られています。材料は「塩と、キャベツ」というシンプルな発酵食品が特徴的な伝統食たり得るのは、キャラウェイが独特の風味をつけているからかもしれません。果てはスイスでも紀元前の遺構からキャラウェイが見つかるなど、あくまで伝説上ではなく、古代から海を超えた土地でも人々の暮らしに寄り添っていたという記述が多く残っているのは、貿易上手として知られたフェニキア人らしい熱心な仕事振りのお陰だと言えるでしょう。

スパイスやハーブを分類する中で、2つの代表的な科があります。シソやバジル、ローズマリー、セージなどの「シソ科」と、パセリやディル、クミン、フェンネル、そしてキャラウェイが属する「セリ科」がその2つ。葉を主に使うシソ科と違い、セリ科はディルやパセリのように葉を使うものもあれば、キャラウェイやフェンネルのように果実(「シード」と呼ばれる)から葉や花まで食用にできる植物もあるのが特徴的です。
素材に寄り添う優しい甘さには 不要なモノを取り除く秘めた力も。
Caraway
キャラウェイやクミン、フェンネルの種子は、見た目が非常に似通っていますが、どれも違う芳香を持ち、料理に使う際の得意分野も大きく分けられます。中でもキャラウェイが特徴的なのは、やはりその芳香が甘く穏やかなこと。そのため、野菜やフルーツ、チーズなどと相性が良く、食べ物の繊細な風味を損なわずにアクセントを付けるのにぴったりのスパイスと言えます。また、ぷちぷちした食感や焼いて更に芳しくなる特徴は、お菓子作りにぴったり。実際に、古代ギリシャ時代からキャラウェイシード入りのパンが作られていたという記述や、イギリスではキャラウェイの種を使った「シードケーキ」が、イギリスのもっとも古い伝統的なケーキとして知られています。
特に前出のザワークラウトは肉食中心のドイツの食文化において、食事のバランスを摂るための一つの知恵として生まれた発酵食。ザワークラウトは乳酸菌でキャベツを発酵させる料理ですが、キャラウェイにも消化促進や整腸作用・駆風などの効果が知られており、古くから風味だけではなくその効果にも期待されていたのかもしれません。

キャラウェイの精油に約4割ほど含まれる「リモネン」には、デトックス・リラックス作用があり、心の緊張や精神的な疲労を回復してくれると言われています。日本には江戸時代に伝来した、歴史の浅いキャラウェイ。あまり親しみのないハーブ・スパイスかもしれませんが、どこかホッとする感じがあるふわりとした香りを嗅ぐと、遠く海の向こうの日常と郷愁が詰まっているような、そんな穏やかさを感じられます。
Photographer SUGURU KUMAKI
Edit & Text KAORU TATEISHI
こちらの情報は『CYAN ISSUE 023』に掲載されたものを再編集したものです。