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その素朴な愛らしさと個性豊かなバリエーションで再び注目を集めている「こけし」。発祥については諸説あるが、江戸時代後期に木地師が子どもの玩具としてつくったことがはじまりとされている。子どもの成長を願う縁起物としても親しまれ、大正・昭和期には東北地方の温泉土産として定着し、現在の観賞用としての工芸品の形になった。

伝統工芸品である「宮城伝統こけし」には、「鳴子こけし」「作並こけし」「肘折こけし」「遠刈田こけし」「弥治郎こけし」の5系統があり、それぞれが土地ならではの特徴を持っている。さらに工人によっても個性がさまざまであり、ひとつとして同じものがないところが魅力である。
「鳴子こけし」の特徴として挙げられるのが、「瓜実(うりざね)型」の頭部と上部に段のついた「内反(うちぞり)胴」である。さらに、描写の特徴としては、頭部の「水引き手及び髪」や「髷」「顔相描き」、胴部の菊や楓、牡丹、あやめ、撫子、桔梗そしてろくろ模様が挙げられる。ひかえめで古風な顔立ちに華やかな模様が施されている。

現・桜井こけし店を営む櫻井家は、「鳴子系」の創始者といわれる大沼又五郎(1824〜1889)よりこけしづくりを続けてきた。こけし発祥の地の一つであるとされている宮城県北西部の山間部、鳴子温泉郷に店を構えている。現在は5代目の櫻井昭寛氏によって先達の技術と精神が引き継がれ、伝統こけしや木地雛の製作が行われている。そして、6代目の櫻井尚道氏は若い感性を取り入れながらも、伝統こけしや木地雛、創作こけしを製作。祖父であり4代目の昭二氏の足踏み轆轤の技術を受け継いでいる。伝統こけしだけでなく、これまでのイメージを覆す新型こけしも積極的に展開。国内のみならず海外からも高い評価を得ている。


「宮城伝統こけし」に5つの系統があることは前述の通りだが、それぞれの製作過程においても違いがある。鳴子温泉周辺で発展してきた「鳴子こけし」ができるまでの大まかな流れとしては、次のとおりである。
はじめに原木を伐採し、木の皮をむいて半年から1年ほど自然乾燥させる。木地には、主にミズキやイタヤカエデなどが用いられる。こけしの寸法に合わせて気取りをし、不要な部分を荒削りしていく。その後、横ろくろや仕上げかんなを用いて、それぞれ頭と胴になる部分を削っていく。さらにサンドペーパーやとくさなどで磨き仕上げをすれば木地の完成だ。

続いて、頭を胴に差し込んでいく。鳴子こけしの場合、頭部と胴部の組み付けは「はめ込み」という技法によって行われるが、首を回すと「キイキイ」と音が鳴るのは、その構造のためである。
次に行われるのが「描彩」である。この行程では、顔と胴に、墨または染料を用いて伝統的な模様を描いていく。胴体の底には手がけた工人の名入れがされるのが一般的である。
最後に、蝋をひく「ろうびき」で仕上げれば、伝統的な鳴子こけしの完成だ。系統だけでなく家々によっても作り方や構造に差がある為、その違いを味わうのもこけしの楽しみ方のひとつである。

宮城県内だけで5系統、東北地方全体では11系統あるこけしは、子どもの玩具というかつての役割を超え、それぞれの地域に根ざしてきた。シンプルな造形に宿ったひとつひとつの個性は、東北の人々が育んできた素朴で美しい暮らしやあたたかな人柄を象徴している。
CRAFTS
Cozchi 櫻井尚道作

ひいな 昭二型 ビリガンナ 8寸 櫻井昭寛作

えじこ ろくろ線 櫻井昭寛作 / 甕型(かめがた) 櫻井昭寛作

小寸 傘こけし 5寸 櫻井昭寛作

姫だるま 櫻井昭寛作

又三郎型 9寸 健三郎型 細胴7寸 だるま丸型 / 昭寛だるま 四角型 大 だるま標準 櫻井昭寛作

Photography KENGO MOTOIE
Edit & Text YURIKO HORIE
こちらの情報は『CYAN ISSUE 024』に掲載されたものを再編集したものです。