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宇南山さんがSyuRoを立ち上げたのは1999年のこと。それに至るまで、様々な経緯があった。

SyuRoの代表の宇南山加子さん。2月にオランダのロイドホテルで行われる展示会 “mono japan” に出展予定だそう。

「父親がジュエリーデザインの仕事をしていたので、ものづくりの現場が身近にある環境で育ちました。工房兼自宅には、製作の工程で出る端材などがそこらじゅうにあり、常に触れていました。学校帰りには、父がものをつくる姿を見てきました」。

 美大のデザイン科を卒業後、照明メーカーで働くも、代理店に提案するまでが仕事になっていることに葛藤をおぼえ、「もっと直接喜びが感じられることや、手をつかって何かがしたい」と考え、退社を決意する。

「会社を辞めたばかりの頃は、手探りの状態でした。ある日、TIME&STYLEというインテリアショップに行った時に、桜の枝を活けている方がいらっしゃったんです。挿花家の谷匡子さんです。谷さんがその桜の枝一本を活けただけで、空間がものすごく変化して、この職業は何だろうと衝撃を受けました。草や枝の “一本の線” を美しく見せる長さ、お水の量、器などの様々な要因が考えつくされていました。そこで声をかけないと後悔すると思い、お話をして、後日アシスタントにしていただいたんです」。

 宇南山さんは、谷さんのもとで日本人ならではの「マイナスの美意識」、「侘び寂び」、「季節感を大切にする」ということを学んだのだという。SyuRoの店舗でも感じられる価値観に通じるところがある。

「空間の作り方は本当に勉強になりました。どうやったら自分の手を使って人を和ませることができるか、喜びを感じてもらえるかを考えていたので、直感的にこれだと思ったんです」。

谷さんに師事し、早朝からフラワースタイリストアシスタントとして働き、夜は生活の為のアルバイト、空いた時間で商品を企画、知り合いに見てもらうといった、多忙な生活が続く。

「アシスタント時代にSyuRoを立ち上げました。名前は植物の “シュロ” から。手を広げたように見える葉っぱの形と、手を使って何かがしたいという私の思いがピッタリ重なったんです。それにシュロは、シュロ縄に使われるなど、生活にとても密着しているもので、そこも気に入りました。始めは、企業から探してほしい人やものを聞いて、それを提案する仕事が中心でした。そこからどんどん広がっていって、デザイン業務の依頼もいただき始め、4年を機にアシスタントを辞めました」。

“手を使って何かがしたい” という想いから生まれていくものづくり

 2008年には台東区鳥越に店舗をオープン。 “INTERSECT BY LEXUS - TOKYO” のテーブルウエアの企画、ディレクションを担当したり、オリジナルの食器や生活雑貨をつくるなど、広がりを見せるSyuRo。常に大切にしているのは「作り手の想い」と「生活に根ざしているかどうか」だ。

SyuRoがオリジナルで開発したアロマのスキンケア “Vann Vesi Vand” 。気持ちを落ち着かせてくれる、心地よい香り。(SyuRo)

「INTERSECTを担当させていただいたときには、北は北海道から南は九州まで、ものづくりの産地を訪ねていって、どうしたらカジュアルでシンプルな、ありそうでなかった食事の提供の仕方ができるかを考えました。他の仕事でも、実際に職人さんやメーカーさんのところに行ってみてお話することが多いです。器ひとつをとっても、なぜこれは使い安いのかとか、こうしたら料理がもっと映えるのにとか、ずっと頭をフル回転させています。世の中にものが溢れているからこそ、どういったものが喜んでもらえるのかを考え続けています」。

 宇南山さんが作り手の想いにこだわる理由は、ある出来事がきっかけだった。

重厚な質感の食器は、急須などの土で知られる三重県四日市市で生産されている。美しくすっきりと重ねられるよう設計されている。

「父のジュエリーの仕事を、いつか継ぐと思っていたのですが、自分のデザインの仕事が楽しくなってしまい、どこかそっちのけになっていたんです。そんな中、父が亡くなってしまい、技術も継げず、これから作りたかったものも話せないままで、もったいないことをしたなと後悔しました。父が試行錯誤してつくっていたものが、家の中にいっぱいあったのに、何も引き継がれないままになってしまったことが、自分の中ですごくもどかしくて。ふと、自分の父親だけでなく、こういう職人さんが沢山いらっしゃるかもしれないと思いました。それでSyuRoは、職人さんの手仕事だったり、日の目を見ない “想い” を伝えられるようなブランドでありたいと思っているんです」。

 2008年に台東区にオープンして以来、人の流れもだいぶ変わった。昨年の8月には以前の店舗を手放し、倉庫として活用していたスペースを改装し、新店舗としてオープンした。

以前は倉庫兼作業場として使用していたというSyuRoの新店舗。シンプルで洗練されながらも、居心地のいい空間。

「この地に店を持つのは自然なことでした。自分が生まれ育った場所に近いこともそうですが、青山や六本木とは違った、美意識の高いものや人が集まっているんです。商品を見て買ってもらうだけでなく、何かが始まるきっかけになるような場になっていけばいいなと思っています」

Photography YUYA SHIMAHARA
Edit & Text YURIKO HORIE

こちらの情報は『CYAN ISSUE 012』に掲載されたものを再編集したものです。

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