ABOUT
1975(昭和50)年、伝統工芸品の指定を受けた「熊野筆」。その歴史は180余年にも及ぶ。主な生産地は、広島県安芸郡熊野町。四方を山々に囲まれた自然豊かな土地で育まれてきたその技術・技法は、時代に適応しながら、脈々と受け継がれている。熊野筆の伝統を重んじながらも、革新的なものづくりを続ける瑞穂に迫る。

熊野筆の歴史
日本における筆の歴史は長い。仏教が盛んになった奈良時代に国内で筆づくりがはじまり、日本の文化や芸術を支える礎となってきた。
熊野筆の歴史は江戸後期に遡る。広島県の山間部に位置する熊野では、農業のみでは生活が成り立たず、多くの農民が農閉期に紀州(現:和歌山県)の熊野地方や大和(現:奈良県)の吉野地方に出稼ぎに行っていた。紀州や大和でつくられた筆や墨を仕入れ、売りながら故郷を目指したことで地域と筆の関連がうまれた。その後、広島藩主の御用筆司のもとで筆づくりを学んだ熊野の住民が村に戻り、技術を広めたことが熊野筆のはじまりとされている。現在では、書筆のみならず画筆や化粧筆などがつくられ、国内生産の8割を占めるほどの筆の産地として発展を遂げた。

瑞穂のものづくり
1980年、熊野町で創業した瑞穂。熊野筆のすぐれた伝統技術と職人技を継承し、革新的なものづくりを続けている企業だ。瑞穂では、若手からベテランの職人30人余りが、化粧筆や画筆などの生産に携わっている。伝統の手作業を守り、選毛・整毛・加工・組立・検品まで、すべての工程が社内一貫体制で行われる。熟練した専門の職人たちがそれぞれの工程を担う分業体制が敷かれ、品質が厳しく管理されている。
自社で手がける「SHAQUDA」は、熊野の伝統的な筆の技術・技法と洗練されたデザインが融合した新時代のブラッシュブランド。使い手のライフスタイルや用途に沿うようデザインされたプロダクト「UBU」「SUVÉ」「MISUMI」を展開。熊野筆の新たな可能性を提案する。

完成までに経る数々の工程
1本の熊野筆が完成するまでには70以上もの工程が必要とされ、そのほとんどが手作業によるものである。瑞穂では、それぞれの工程に熟練の職人が携わり、原材料の選定から組み立てまでが一貫体制で行われる。ここでは、瑞穂の化粧筆ができるまでの主な5つの工程について紹介していく。

はじめに行われるのが、「整毛・選毛」である。「整毛」の工程で丁寧にクシをかけて毛を均等に揃えた後、筆にふさわしい原毛を選ぶ「選毛」が行われる。これは、品質を大きく左右する重要な工程である。熊野筆は主にヤギや馬などの原毛が用いられ、その絶妙な配合によって肌当たりや使い心地が変化する。
続いて行われるのが「逆毛・すれ毛取り」である。毛先を整え、「反差し」と呼ばれる小刀で逆毛やすれ毛を抜き取っていく。指先の感覚で肌触りの悪い毛を選別するため、長年の経験と技術が必要となる。この工程を何度も繰り返すことで、より肌触りのいい化粧筆が出来上がる。

3番目の工程が「山出し」である。この工程では、「コマ」と呼ばれる木筒の中に毛を入れ、振動させることで毛先を山型に整える。理想の穂首をつけ接着剤で固定する。近年では、筆づくりの原点に立ち戻り、UBUシリーズのように金具を用いない製品も多くつくられている。
最後に行われるのが「軸付け・検品」である。毛抜けや毛切れなどがないか入念に検査を行い、穂先を整えれば完成だ。こうして、見た目にも美しく肌当たりもなめらかな化粧筆が出来上がり、わたしたちの暮らしをより豊かに彩る。

CRAFTS
01. MISUMI 4 Brushes & Brush wrap

02. SUVÉ Face cleansing brush

03. SUVÉ Cleansing Brush Set

04. SUVÉ Body brush(short , short hard , short semi-hard)

05. UBU 8 Brushes

画像提供:有限会社瑞穂
Photography YUYA SHIMAHARA
Edit & Text YURIKO HORIE
こちらの情報は『CYAN ISSUE 025』に掲載されたものを再編集したものです。