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 日本のみならず、海外からも店を目指して人が訪れると言う眼鏡店“GLOBE SPECS”。オープンから今年で20年。何が一体、眼鏡好きたちの心を掴んで離さないのか。代表の岡田哲哉さんのルーツに迫ってみたい。

Anne et Valentinの新作。(左上から) SHUFFLE U228 ¥46,000、 SUZANNE1618 ¥30,000、OTIME 1763 ¥35,000、PANTON 1778 ¥45,000(右上から)ALMA 1722 ¥27,000、FANZINE U138 ¥40,000、M4 H33¥49,000

 岡田さんは転勤族の家庭で育ったが、小学4年生の時に異国の地、アメリカに引っ越すことになる。
「日本全国を転々としましたが、自然豊かな中で暮らしていました。ザリガニ採りをして裸足で遊んでいたような少年が、いきなりアメリカに住むわけですから、それは大きな衝撃をうけました。当時のニューヨークは、Woodstockに街全体が影響を受けているような感じで、小学生でさえもタイダイのTシャツを着ていました。私が話す英語も、完全にスラングばかりでしたね(笑)。日本とは全く文化が違うので、ファッションから音楽に至るまで、すべてが刺激的。今思えば、幼少期に過ごしたアメリカでの経験が、ファッションに興味を持つ入り口だったのかなと思います」。

 2年半ほどの滞在を経て、帰国。東京の青山に住むことに。
「青山ではアイビー・ルックが全盛期を迎えていました。次々に新たなブランドやショップができて、ずっとファッションの化学反応を見ている感じでした」。

 ファッションが常に身近にある環境で育った岡田さんだが、親族には弁護士などの堅い仕事についている人が多く、ファッションを仕事にすることは考えなかったのだと言う。
「ファッションは、仕事と切り離し完全にプライベートという感覚でした。自然と堅い仕事に就くものだと思っていて、大学卒業後に銀行に就職しました。いざ働いてみると、自分が一生できる仕事ではないなと感じ3、4ヶ月で退職しました。辞めてから何が本当に自分に合っているのかを見直し、ファッションの要素と堅い要素を持ち合わせたものは何だろうと考えた時に、眼鏡だ、と思いついたんです」。

アイウエアの為のネックレス。(上から)873 P¥19,000、875 P¥22,000、973 LP¥18,000、916 LV¥38,000(LaLOOP/GLOBE SPECES渋谷店

 そして岡田さんは、アジアやアメリカにも支店のある眼鏡企業に転職する。
「その会社に入って3年目くらいの時に、ニューヨークの支店勤務が決まりました。15年ぶりくらいに戻ると、ラップやヒップホップが全盛で、本当に危険な時代でした。高級宝石店や有名デパートのウィンドウはディスプレイの専門家が担当するのですが、そこから、商品をどう見せアピールするのかを学びました。自分の店でもやってみるわけですが、予算がないので何とか理想の形に近づけようと試行錯誤をしました。お客様に喜んでいただけるよう努力を続け、店の売り上げを2倍まで伸ばすことができたんです。
 店も順調だった矢先、実家の都合で帰国することになりました。帰国後は経営企画の部署に配属され、経営者と話をしてみると、自分と価値観が全く違うことに驚きました。私は、お客様に喜んでもらう為に何をやればいいかを常に考えて、それを全部やった結果、あとから数字がついてくると思っていたのです。でも経営陣にはそのような考えをする人はいなかった。自分の目指すことはできないと感じ、29歳の時にその会社を辞めました」。

20 代前半にアメリカでとったという オプティシャンの資格。「右の賞状は、 アイリッシュウイスキーの工場で試飲 すると誰でもらえるものです(笑)」

 ずっと入りたかったが中途採用をしていなかったという会社の門をたたき、無事入社。社長室配属になり、そこでは主に海外ブランドとの折衝を担当した。
 その後独立し、1998年渋谷にGLOBE SPECSをオープン。
「今の店は計画的に立ち上げた訳ではなく、それまでのキャリアやネットワークを考えると、日本に留まって海外とのパイプ役になることが、日本のユーザーのためにも海外のデザイナー達の為にもなると思って始めたものです。
 開店当時は、まわりに今ほどお店もありませんでした。ファッションとしてのアイウエアという意識も、まだまだ芽生え始めた程度。ヨーロッパやアメリカでは、若い方だけでなく大人の人たちもなりたいイメージを眼鏡で叶えており、自分の店でも、そういうイメージの提案ができたらいいなと思っていました。
 オープン当初は、スタイルのある大人の男性が多かったのですが、今では20〜50代まで幅広い年代のお客様がお見えになります。オープン当時から通ってくださっている方は、親子二代で来てくださる人もいます」。

渋谷店の内観。世界中からセレクトされた眼鏡が並ぶ。少しずつ集めていったと言うこだわりの什器や遊び心溢れる雑貨も。

“仕事の面白さを初めて感じた時からやりたいことは一貫していてずっと変わることはない”

 2017年に20周年を節目を迎えるGLOBE SPECSだが「MIDO Bestore Award 2017」で最優秀賞を受賞した。“MIDO”とは、ミラノで開催されている世界最大規模の眼鏡展示会で、世界一の眼鏡店にリニューアルした代官山店が選出されたのだ。今後の展望を聞くと、岡田さんは次のように語ってくれた。

「今後の展望や、やりたいことはずっと変わりません。ニューヨークで売り上げが2倍になったときに、この仕事の面白さを初めて知りましたが、この経験が私のやりたいことのすべてです。視力の問題で困っている方に解決策を用意すること。ファッションとして個人のイメージを叶えること。両方満足してくださることに、喜びややりがいを感じています」。

photography YUYA SHIMAHARA
Edit & Text YURIKO HORIE

こちらの情報は『CYAN ISSUE 013』に掲載されたものを再編集したものです。

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