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 私たちは毎日多くの “もの” に囲まれ生きている。部屋を見渡すだけでも椅子や時計、マグカップに文房具…その一つひとつが自分の暮らしを作りあげているとしたら、使いやすさはもちろん愛着の持てるもの選びをしたい。

 akiiは日本に数多ある技術に光をあて、プロダクトを作る新進気鋭のデザインユニットだ。照明、スピーカー、老眼鏡。二人の手から生み出されるプロダクトは要素を削ぎ落とした美しい佇まいが印象的。でもそれだけじゃない。どこか人の体温を感じ、使うたびに心が弾む。「ものが溢れている世の中で、単にスタイリッシュなものを作ればいいとは思っていません。僕たちはデザインや機能性を越えた今までにない体験ができることを重視しています」と前田さんは穏やかに話す。

一冊の照明「NIGHT BOOK」

本の形を模したことで今までにない照明体験が味わえる傑作。背表紙は本革、使うたび経年変化を楽しめる。

 二人の出会いは大学時代。京都工芸繊維大学入学後、前田さんが岩松さんの学部の授業に潜り込んだのがきっかけ。その後も顔を合わせる機会が重なり、就職と同時にともに上京。生活用品に関するデザインコンクールの応募を機にユニット結成と相成った。
「お互い東京にいるし、何か一緒に出してみようという話になって。丸一日アイデアを練ったプロダクトがグランプリを受賞したんです」(前田さん)。「僕たちは目指すベクトルが同じだからやりやすくて。まだ注目されていない技術をデザインの力で社会に届けることが面白いと思っています。あと、良いと思うものが似てるから最終的な判断が食い違うこともない。持ち物もよくかぶるし(笑)」(岩松さん)。「東京で久しぶりに会った時、同じスニーカー履いてたもんな(笑)ユニットで活動するとアイデアの頭数が増えて提案の幅がぐんと広がるのが強み。一人の時よりレベルが一段上がる感覚です」(前田さん)。

“物語を忍ばせ、きちんと売れるものづくりを”

 akiiの名が一躍知られる契機となったのは2017年に発表した「NIGHT BOOK」。それは本をモチーフにした一冊の照明。埼玉県の小さな町工場の技術を生かしたプロダクトは国際的なデザインアワードを多数受賞し、世界のトップバイヤーがこぞって買い付けを希望するほど。二人が大事にしているのは企業の魅力を軸に物語性を内包したものづくりだ。
「デザインのはじまりは技術を深堀りし、特徴を尖らせることから。僕たちは『デザイナーの個性を出したい』という感覚はあまりなくて、技術をうまく活かしてお客様に届けることを第一に考えます」(岩松さん)。「たとえば町工場のワイ・エス・エムさんは薄板の中で均一に光らせる板金加工とLED導光技術が持ち味。工場を何度も訪れるうちに板から広がる優しい光に惹かれて。ふと『本棚が光ったら面白いかも』と思った所から『NIGHT BOOK』が生まれました」(前田さん)。

小さな想いに耳を傾ける

工場に何度も足を運び、企業や職人の想いに真摯に寄り添う。等身大の彼らだからできるものづくりがある。

 それは本のように引き出すだけで部屋中にやわらかな光が広がる魔法のような照明。一度使うとその驚きを誰かに語りたくなる。もしかすると日用品にそっと物語を忍ばせるのがakiiらしさなのかもしれない。「物体として見ると『NIGHT BOOK』は鉄の箱にアクリルを入れただけなんです。でもこれを “本” と言い切ることで物語が生まれ、使う人の愛着も深まる。そこがデザインの肝と言える気がします」(岩松さん)。

愛用品を照らす「LIGHT SHELF」

「NIGHT BOOK」と同時発表。身の回りのものを美しく飾れるほか、ミニマルなデザインでデスクライトや読書灯など様々なシーンに馴染む。

 平日は企業のインハウスデザイナーとして働く二人。会社員との両立から生まれるのは視点の蓄積だ。「akiiの二人と会社員の二人、合計4つの視点を持っている感覚です。会社では自分たちだけでは成し遂げられない大きな仕事に携われる醍醐味があります。一方akiiでは小さなプロジェクトにじっくり関わり、多種多様な課題に応えていきます。両軸で働くことで視野が広がり、それぞれで得たスキルを活かしあえます」(前田さん)。「僕らは作ったものをお客様に届ける所まで責任を持ちたいので、プロダクトデザインに加えウェブサイトや展示会までお手伝いすることが多い。その時二人が兼業することで蓄積した経験が助けになっています」(岩松さん)。

やりとりはiPadを活用して

会社員として働く二人はリモートのやりとりがメイン。スケッチを共有し合うことでプロダクトの全体像を固めていく。

 広い視野を持って世界の片隅に眠る技術をすくい上げ、届ける。生活を共にするものはあまり洗練され過ぎていると手が届かないし、機能一辺倒でもつまらない。そのちょうど良い交差点を探しながら “語りたくなる” ものづくりを。地に足の着いたakiiの道のりは、まだ始まったばかりだ。

Photography & Edit & Text NAO TADACHI

こちらの情報は『CYAN ISSUE 028』に掲載されたものを再編集したものです。

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