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 触れるとどこか懐かしく、ホッと落ち着く馴染みの良さ。まるで幼い頃に母親が縫い繕ってくれた巾着袋のように、愛情を感じるぬくもりがそれにはある。

 島津冬樹さんは、街中で廃棄された段ボールを用い、財布や日用品を製作する段ボールアーティスト。プロダクトの仕上がりは、これが本当に私たちの知るあの素材なのか?と疑いたくなるほど、百貨店に並んでいても見劣りしない、とびきりクールでユニークな佇まいだ。

アイコンの段ボール財布

活動の代表的アイテムとなった段ボール財布。デザインだけでなく、ロングウォレットからミニウォレットまでサイズや形状もさまざま。【PHOTO:©carton / Fuyuki Shimazu】

 段ボールとの出逢いは、大学2年生の頃に遡る。
「財布がボロボロになってしまったのですが、新しいものを買うお金がなかったんです。そんなときふと目の前に、授業の課題で集めていた段ボールが2~3枚あって。とりあえずこれでいいかなと、間に合わせで作ってみたのがはじまりでした。見よう見まねで財布の型を作りガムテープで固定するといった、なんとなく形になっただけの初代 “段ボール財布” 。アルバイト代が入るまで1ヶ月くらい持てたら優秀かなと思っていたのですが、気が付くと1年近く持てたことに自分自身とても驚きました」

 本来、さまざまな外部刺激から中身を守り、安全に目的地へ運ぶための段ボール。それゆえ、多少のキズや水にも強く、摩擦による擦れやしなりはかえって革のエイジングのような風合いになる。「ついこの間まではただの段ボールだったのに!」そんな感動が卒業してからも脳裏を離れず、一度は大手広告代理店へ就職するものの3年半で退社。晴れて『Carton(カルトン)』としての活動をスタートさせた。

島津さんのバッグの中身

いつも持ち歩いている必需品。いずれも段ボール製もしくはアレンジが施されている。「iPhoneケースのみまだ苦戦中です(笑)」【PHOTO:©carton / Fuyuki Shimazu】

 父は技術者、母は趣味で絵を描いたり料理教室を開いたりするなど、手元が器用な両親のもとで生まれ育った島津さん。叔父も木材の研究者、祖父も図鑑をたくさん所持しているような少々マニアックな人で、モノづくりに目覚めるのはごく自然な流れだった。
「原点となったのは貝拾いです。海の近くへ拾いに出掛けて、標本を作ったり、自分なりに図鑑を作ったりしていました。その後もキノコや植物などにハマったのですが、集めてはアーカイブして、そこからインスピレーションを受けてものを作る、この3つが常にセットでした」

秘密基地のようなアトリエ

世界中から拾い集めた段ボールがここに。「お気に入りのデザインが多いので、たくさんあっても財布にできる箱数はごくわずかです」【PHOTO:©carton / Fuyuki Shimazu】

 モノづくりに長けていながら、一度興味が湧いたものはとことん拾い集めたいというピッカーとしての一面も島津さんを語るうえでは欠かせない。
「活動をはじめてかれこれ11年。国内、国外問わず、たくさんの国と地域の段ボールを拾い集めてきました。おもしろいことに、日本と海外の段ボールは全く違うんです。段ボールって約半数以上は食品に関わるものなのですが、日本の食品はほとんど海外には輸出されていません。それに対し、海外からはフルーツなど多くの食品が入ってきます。つまりその分、競争率が高くなるということで、海外の段ボールは一目でどこの何かがわかるように地味なものより派手なもののほうが多くなっているんです。要は段ボールって、競りをするおじさんに一番ヒットしなければならないんですよね。とくにオーストラリアみたいな農業大国は、とても色鮮やかです。日本は文化的にも水墨画の時代もあったりして、もともとそんなに色を使うのが得意じゃないのかもしれません。ベージュに白と黒じゃないですけど、それくらいおとなしいデザインのほうが好まれやすいのかなと、憶測ですが思っています」

“たかが段ボール。でも、そこにはたくさんの物語がある”

 どうしてそれほどまでに段ボールに惹かれるのか。
「この世の段ボールを見尽くした人はまだ誰もいない。知らないものを見たいというか、そのミステリアスさみたいなものにロマンを感じているのかもしれません。それと同時に、掘り下げていく過程の中で段ボールにはたくさんの物語があることを知りました。誰が作っているとか、発送しているとか、捨てられるまでの背景。その一部は『旅するダンボール』として2018年に映画化もしました。ただ財布を作るだけじゃなく、その知られざる物語も伝えていけたらいいなと。捨てられるものは日常にたくさんありますけど、捨てる以外の選択肢があるという気付きを、自分の活動を通して知っていただけたら嬉しいですね」

使いやすさに拘ったツール

「段ボールを固定する留め具以外は、基本的にこれらですべて叶います。愛用の筆記具は、ドイツのロットリングというブランドのもの」【PHOTO:©carton / Fuyuki Shimazu】

 現在は、続編『HOMECOMING~The Journey of Cardboard~』も撮影中。
「次に拾いに行きたいのは、ニュージーランド。ニュージーランドってキウイのゼスプリの発祥地なのですが、ゼスプリのダンボールってどの国へ行っても必ずといっていいほど転がっているんです!一体どんな場所で生まれて、どれだけ広がっているのか。今からその日を心待ちにしています」

Photography MIE NISHIGORI
Edit & Text NENE MATSUMOTO

こちらの情報は『CYAN ISSUE 028』に掲載されたものを再編集したものです。

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