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 例えば、その天使と目が合うと、なんだか急に愛おしく思えて、そばにいてほしくなる。やわらかでカラフルな色合いは、心にポッと灯りを灯してくれるよう。そんな作品の作り手である柳本暦さんは、“楽しく使えて毎日を少し刺激的にするアイテム” というコンセプトを掲げ、日々制作に没頭する。

暦さんの作品たち

この日は個展に向けての準備中。「朝から晩まで集中力が切れないタイプで、周りに驚かれるほど。本当にずっと制作しています」

 母は版画作家、妹は暦さんと同じく陶芸作家であり、現在も3人でアトリエをシェアして制作している。また、現在は古美術商を営む父も、かつては美大で学んでいた経験があり、美術に造詣が深い柳本さんご一家。
「両親がモノづくりをしていましたが、昔の私自身は積極的に何かを作るということをしていたわけではなく、まさか仕事になるとは思ってもいませんでした。何かしらを作りたいという気持ちはあったけれど、漠然としすぎていたんです。
 やりたいことを見つけようと、美大の通信に通うことにしましたが、結局その “何か” を見つけるのは難しくて……。よくわからないなと思っていた時期に、偶然ジュエリーの専門学校が存在することを知りました。見学に行ってみたら、奥が深くて楽しそうで、これだ!という感覚があって。すぐに入学を決めました」

制作の合間には読書を

家族の影響で小さい頃から親しみがあった画集を眺めて過ごすことも。フランチェスコ・クレメンテの画集がお気に入り。

 思い返せば、幼い頃からお菓子についているおもちゃのジュエリーを集めたりと、なじみのある分野だった。こうして、暦さんのモノづくりの道が本格的にスタートした。
「専門学校では、作家のコンセプトをいちばんの基準として、素材にとらわれず自由に表現できるファッションアートアクセサリーコースを選びました。アクセサリーといっても、身につけられないものでもよかったので、重いものや大きいものばかり作っていましたね。そこで、表現することの基本を学びました。
 私は鉄がとても好きで、はじめの頃は鉄を叩きまくっていたんですけど(笑)当時の担任だった先生が、陶芸に向いているんじゃないかと勧めてくださったんです。私のことをよく理解してくださった先生で、私の性格やそれまでのモノづくりのやり方を見ていて、培ってきたものが陶芸の工程で活かせると思ってくれたのではないでしょうか。偶然にも私の父が陶芸をやっていたこともあり、基礎は父に教えてもらいました。実際にやってみたら、絵も描けるし、手も動かせるし、考えながら形を作ることができる。それが自分に合っていると感じました。完成までは時間がかかるけれど、今まで悩んできたことも含めて活かせるなと」

愛用している道具

「押し型(写真中央右)は、こんなのが欲しいと相談したら父が陶器で作ってくれました。押し型を作るのは父の方が上手なんです」

 周りの導きやサポートがあり、陶芸の魅力と出合うことなった暦さん。現在は、花瓶やお香立てなど生活に根付くものをメインに制作しているが、当初はそうではなかった。
「陶器でも、はじめの頃はオブジェやインスタレーション作品のようなスケールの大きいものを作っていたんです。でも大きなものばかり作っても、置いておく場所もないし、その場だけで終わってしまうのはもったいないという気持ちもありました。
  その頃、インテリアのコーディネートが好きだったこともあり、自分の部屋を飾るものを自分で作りたいと考え始めました。さらに、それが自分を守ってくれるもの、お守りのような存在だったらいいなと。だから、最初は自分のためだけに制作していたのですが、だんだん周りの友人たちが欲しいと言ってくれるようになって。そこから発表しつつ、販売もしていくようになりました」

“寂しさや孤独に寄り添うように”

 “自分だけのお守り”だったものが、徐々に形を変え、思いを変え、現在に至る。だからこそ暦さんの手から生まれる作品には、私たちのことを守ってくれるような温かさを感じるのかもしれない。
「作る時に第一に大切にしているのは、まず自分が本当に好きなものであること。そこに私が感じたことを加えていきます。作品自体はカラフルで明るいと思われがちですが、私が制作するきっかけとしては、寂しさや孤独がインスピレーションになることが多いです。でも、作っている時は、絶対に楽しい気持ちでいようとも決めています。だから、私にとって作ることは、寂しいという気持ちを解消する目的でもあるのかもしれません。
 作品についての説明のようなことはあまり必要ないと考えていて、見てくださる方に委ねたいですね。私が何かを伝えることよりも、持ってくれる人が毎日少しホッとした気持ちになってくれたり、作品から楽しそうにいろんなことを想像してくれたらいちばん嬉しいです」

インスピレーション源としての香り

「ラルチザンの香水から行ったことのない場所を想像したり、BULYの香水の題材となった絵を思い浮かべたりして、作品に落とし込むことも」

Photography MIE NISHIGORI
Edit & Text TOKO TOGASHI

こちらの情報は『CYAN ISSUE 027』に掲載されたものを再編集したものです。

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