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 新たな生活様式を前向きに捉える動きが進んでいた夏の頃。イラストレーターとして活躍するニシイズミユカさんの元には、たくさんのビューティ・ヘア関連の依頼が舞い込んだ。そのほとんどが、“自分ケア” といった自らのテンションをあげるために使うようなアイテム。パッケージデザイン、ノベルティデザイン、時にはコラボレーションするなどして、さまざまなアイテムの “顔” を現在も描いている。
ニシイズミさんのイラストには、見る人をポジティブな気持ちに誘い、恋をしたときのようなトキメキをもたらす不思議なパワーがある。鮮やかな色合い、凛としたタッチ、可愛らしい少女像…… それだけではとうてい語りきれない。この絵の本質はどこにあるのだろう。

『君と花』で展示した原画

夏の終わり頃、花をテーマに個展を開催。「外出自粛期間中お花にとても癒されたので、自宅にあったお花や植物をモチーフに描きました」

 「家族に聞く限り小さい頃はとても人見知りで、ひとり遊びが好きな子どもでした。他の友人たちが外で遊んでいる中、その輪になかなか入っていけなくて、絵を描いたり、風呂敷を結んで服を作ったり。細々したのが好きだったのもあるんですけど、時間をつぶすためにしているような感覚でした。“上手だね” って褒めてもらうところから始まる、会話への期待もあったと思います」

 コミュニケーションツールのひとつとして嗜んでいたイラスト。「将来、絵を描く仕事がしたい」と志すようになったのは、ここからすぐの話だった。
「小学校へあがってから、趣味で描いていた絵が先生の目に止まり、学校行事に携わるイラストを担当させてもらうようになったんです。例えば、卒業するときに配られる合唱コンクールのCDジャケット。これまでイラストは1対1でやるものとばかり思っていたのですが、いろんな人たちが関わって、いろいろな形になっていく、その可能性みたいなものにとても感動して。新しい絵の楽しみというか、それまでとは違う興味の持ち方に繋がっていきました」

自分用メモから私服日記へ

もともとは人に見せる予定ではなかったという私服日記。「日記に私服をメモしたところが始まりです。その時の “好き” がつまっています」

 絵というツールは持ちながら、どんどん外の世界へ飛び出すようになったニシイズミさん。部活では水泳や剣道などスポーツに勤しみつつ、大好きな絵は描き続けていきたいと高校もデザイン科を専攻。そして、地元の静岡から上京し、渋谷にある桑沢デザイン研究所へ入学した。
「一般的なデザインの専門学校や大学とはちょっと異なっていて、グラフィック、ファッション、プロダクト、スペースをまんべんなく学び、デザインの原動力を培うことを基軸とした理念の学校でした。多種多様な授業をたくさんこなしていく一方で、好きだったのがファッションの分野です。“渋谷の街ゆく人を何人かスケッチしてきてください” といったドローイングの授業は、とくに刺激的なものでした。今もずっと描き続けているくらいに」

お洒落な人はすかさず絵に

学生時代から続けている街角ドローイング。近所のファミレスにいるおじいちゃんの着こなしが素敵だなと思い、描いたりすることも。

 朝から晩まで、好きなことを共有できる仲間と好きなことに没頭する毎日は、とても充実していた。イラストが運んでくれたかけがえのない時間。これは次に、商社の中にあるデザイン部へと舞台を変える。

“イラストレーションは、コミュニケーションツールとしても欠かせないもの”

「かなり特殊ではあるんですけど、働く人のユニフォームや学生服のデザイナーを、企業で4年半ほどしていました。制服って毎日着るものですから、その質をどれだけあげられるかというところにとてもやりがいを感じていました。あと、チームを組んで案件に向き合う機会が増えたことが、とても楽しくて。自分ひとりじゃできないことも、会社だとできるんだと気づけたことは大きかったです。特別、絵が基軸になった人生ではないのですが、思い返せばいつも絵が切り拓いてくれていました。私にとってイラストレーションとコミュニケーションは、たぶん切っても切り離せないものだと思います」

手描きの台湾ガイドマップ

「旅行した国のガイドマップを作るようなイメージで、注釈を加えながら1冊のノートにまとめています。旅先に、チェキは必須です」

 独立しておおよそ2年。今度は自らが先導して、人と人とが繋がる場所を模索していきたいと語る。
「今はまだ難しいかもしれませんが、これまで媒体や広告を通して公表することが多かったので、もう少し人と人とが関われるような形で、広げていけたらいいなと。展示や似顔絵のイベントなど、いろいろな方と手を伸ばすように展開していきたいとはずっと考えています」

 秋に都内で、春に台湾で、展示を控えているニシイズミさん。「イラストとコミュニケーションは重要なテーマです、これからも」 と、最後にやさしく微笑んだ。

Photography MIE NISHIGORI
Edit & Text NENE MATSUMOTO

こちらの情報は『CYAN ISSUE 027』に掲載されたものを再編集したものです。

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