ヘアメイクの持つアートな側面を、世の中に広めていきたい
計良さんは、新潟県佐渡島生まれ。独自の伝統文化が発展する島のなかで、音楽や芸術を身近に感じながら育った。絵を描くことが好きで、中学生までは漫画家を目指していたが、物語を作ることの難しさに直面し挫折。その後、高校生になったときに起きたバンドブームが、計良さんの人生を大きく左右した。
「当時はヴィジュアル系バンド全盛期。僕自身も髪を立ち上げ、メイクをしてライブに出演していました。そのうちに、メンバーや友達のヘアもセットしてあげるようになると、髪の毛で造形することに楽しみを見出すようになりました」
もともと何かを作り出すことが好きだった計良さんは、この経験をきっかけに、美容の道に進むことを決意する。
「資生堂の美容学校に行っていた姉の影響もあり、同じく資生堂の学校へ通うことに。当初は資生堂にヘアメイクアップアーティストの集団が存在することを知らなかったので、サロンでお客様にカットやカラーを施す仕事を目指していました。でもある日、外部講師として来てくださったマサ大竹さんの仕事を拝見し、大きな衝撃を受けたんです。マサさんは、日本人として初めてパリコレに参加した資生堂のトップアーティスト。彼のアーティスティックな仕事に惚れ込み、自分もこういう仕事がしたい!と思いました」
影響を受けたアーティスト

美容学校卒業後、狭き門を突破し晴れて資生堂への入社が決まると、サロンで働きながら、現場でのアシスタントを経験。ヘアメイクで様々な世界観を表現するスキルや感覚を、肌に染み込ませていった。
「僕は男性ということもあって、生身の人間の肌にメイクを施すという経験はありませんでした。美術は得意でしたが、紙に絵を描くこととメイクアップは全く別の話。最初はそれこそ、アイラインもうまく引けず、現場でモデルにダメ出しをもらうことも。それでも徐々に、自分のやりたいことや世界観を正確に表現できるようになっていきました。自分の仕事を通じ、モデルや他のスタッフが喜んでくれることが何よりも嬉しかったです」
サロンに7年ほど勤めヘアメイク専門の部署に異動すると、宣伝広告やポスター、CMなど様々な仕事を精力的にこなすようになる。
「ウーノやジェレイド、マシェリなど、一時期は約9ブランドを1人でこなしていました。その後、今も担当しているTSUBAKIを受け持つことになり、ヘアの美しさを表現することに注力。またニューヨークやパリ、東京コレクションのバックステージにも入り、チーフとして全体の統括もしました」
著書「KERAREATION」

トップヘアメイクアーティストとして多忙を極める一方で、社内外のセミナーや講師活動なども意欲的にこなしていった計良さん。2019年には、美術館で初の個展を開催。これは自身初の試みであると同時に、公立美術館における初のヘアメイクアップアーティスト展でもあった。
「へアイメイクの仕事というのはヴィジュアル作りにおける最前線ではありますが、基本的には裏方の存在。いわゆる“縁の下の力持ち”で、表に出ることはほとんどありませんでした。そんな状況をなんとか打破したいと考えていたときに、公立の美術館において、かつてへアメイクの展覧会が行われたことがないと知りました。もし開催することができたら、我々の仕事をより多くの方に知っていただくいい機会になるのではないか、そう思ったんです」
結果として、計良さんの熱い想いに共感してくれた埼⽟県⽴近代美術館での開催が実現。老若男女問わず多くの人が訪れ、ヘアメイクという仕事の社会的認識をワンステップ前進させることに成功した。
アクティブな仕事を支える相棒

計良さんは、昨年よりSABFA*の校長にも就任。コースやカリキュラムを大幅に見直し、より時代のニーズにあった学校へと進化させた。美容師免許を持っている人に限らず、美容のプロを目指す全ての人たちに、資生堂が150年の歴史の中で培ったノウハウを積極的に伝えている。
「間口を広げることで、美容業界全体がより活性化するのではと考えています。ヘアメイクのテクニックや技術力、日本における美容の価値を、更に底上げしていきたいですね」
常に業界全体の未来のことを考え、多角的な視野で物事を捉えている計良さん。これからは、⾃分を育ててくれた業界への恩返しがしたいと笑顔で語ってくれた。
「SABFAにおいて新しい人材を育てることはもちろん、ヘアメイクの社会的地位の向上にも尽力したい。展覧会を地方や海外にも巡回させ、より多くの人にこの業界の魅力を伝える機会を増やしたいですね」
生徒との積極的コミュニケーション

*資生堂が運営するヘアメイクアップアカデミー&スタジオ
Photography TOM CUDE(model / SHISEIDO), MIE NISHIGORI / still
Edit SATORU SUZUKI
Text SHIHO TOKIZAWA