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 台東区西浅草。浅草の観光地から少し離れた閑静な住宅街の一角に、「岡野弥生商店」がある。清潔感のある白い扉をあけると、今まで見た事のないような、吉原をイメージした“土産物”がずらりと並んでいる。

西浅草の住宅街にある「岡野弥生商店」。お隣は、お店を開くときに協力してくれたというクリスさんのバー。

 ブランド「新吉原」のデザイナー・岡野弥生さんは、江戸時代に遊郭として栄えた吉原の地に生まれ、育ったのだという。

「そこで生まれ育ったので、特殊な環境だとは思っていませんでしたね。身の回りには、いわゆる“日本っぽい”ものが溢れていました。浅草のお祭りだったり、職人さんのつくるものだったり。そういう環境で育ったので、一時は海外のカルチャーに強く憧れて、洋画や洋楽に影響されました。海外の文化を一度見て体験しているからこそ、『わたしの国にしかないもの』『これがかっこいいと自信を持って言えるもの』がはっきりと分かったような気がします」。

吉原の遊女をモチーフにした人気の手ぬぐい。岡野さん自らが浮世絵を組み合わせたものや、オリジナル柄まで揃う。

 高校卒業後にロンドンに留学し、帰国してすぐのタイミングで女性ファッション誌の編集部から声がかかり、20代は出版社で編集者として働いた。

「モード誌の編集部で働いていたので、家が東京でも東の方だと『遠い』と言われる事もありました。今でこそ、東東京が盛り上がってきていますが、当時はこっちに飲みにくる人なんていなかった。それで、もっと東東京が盛り上がればいいのにな、という想いはずっとありました。もともと編集希望だったわけではないので、30歳になって編集の仕事は辞めました。とにかく地元で何かやりたかったんです」。

岡野さんのデスクは、新吉原の世界観がそのままつまっている。カストリ書房の本や、浮世絵の本などが多数並ぶ。

 とはいえ、具体的に何かやりたいことがあった訳ではなく、試行錯誤の末、現在の仕事にたどり着いたのだという。

「最初に思いついたのが、カフェなどの飲食店です。それでまず、大手のホテルでクロークやシェフアシスタント、ウエイトレスなどを経験してみました。全部やってみて、サービス業は自分には向いていないと感じ、次に思いついたのが“土産物屋”です。土産物だったら吉原の街の事も伝えやすいですし、デザインやものづくりに携わったことはなかったのですが、自分に向いているかもしれないと思いました」。

吉原で育ったこと含め、今まで影響を受けたすべてのものが「新吉原」につながっている

 「新吉原」を設立して3年目。店舗はまだ2016年6月にオープンしたばかりだ。

「お店が出来てから、ブランドの世界観が伝わりやすくなったのか、注目していただく機会が増えました。駅から遠いこともあり、SNSを見てわざわざ来てくださる方がほとんどで、たまに外国人のお客様もお見えになります。卸しかやっていなかったときは、デザイナーは男性だと思われていたくらいなんですが(笑)、今は店舗に私がいることによって、色んな方が会いに来てくださいます。近所に『カストリ書房』という遊郭専門の本屋さんがあるのですが、そこの店主もオープン時に本を持って来てくださったんです」。

インタビューにも登場した「カストリ書房」で取り扱う本。オリジナルステッカーは、岡野弥生商店でも取り扱い有り。

 岡野さんは、「新吉原」を支えてくれているのは、人の縁だと語る。「ブランドを立ち上げて大変だった事は沢山あるけれど、いろんな方に助けてもらいながら乗り切ってきました。この場所に店を開けたのも、隣でバーをやっているオーストリア人のクリスさんのおかげだし、困った時には地元吉原の方が助けてくれました。もちろん、ものづくりにかかわる職人さんや友人のイラストレーターの協力があってこそ今があります。浅草の版画職人さんと仲良くなって、そこから桶屋さんを紹介してもらい、さらにべっ甲屋さんにつながり……という感じで、面白い人といい物が作れそうだったら商品を考えていくという流れなんです」。

べっ甲職人さんとのコラボかんざし。ベッ甲イソガイ×新吉原「おなごかんざし」small ¥28,000(岡野弥生商店)

 人との出会いによって、新たなものが生まれていく——。今後の展望について、岡野さんは次のように語ってくれた。

「“台東区”って上野と浅草がある割に、言葉としてメジャーじゃない気がするんです。例えば、吉原とか山谷みたいな観光地周辺のディープなところも、一緒になって東京オリンピックまで盛り上げていければいいなと思います。地元のために、少しでも役に立てたらうれしいです」。

Photography YUYA SHIMAHARA
Edit & Text YURIKO HORIE

こちらの情報は『CYAN ISSUE 012』に掲載されたものを再編集したものです。