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The Scene of Miss Dior

愛のような香りを纏うとき、わたしたちは “ミス ディオール” である

Scene 1

 「ミス ディオールはね、パリの地下鉄の匂いがするの」と、いつだか香水好きの友人が語ってくれたことを思い出す。彼女はとてもセンスが良くて、自分らしさとは何かをよく理解している芯のある女性。だから、そんな彼女がこのあまりにも有名で万人に愛される香りの代表ともいえるフレグランスを気に入っているという話は、少し意外で驚いた。事実、わたしと彼女が香水についての情報交換をするときは、ニッチフレグランスや邪道でクセのある香水ばかりが話題に上がることが多かったから。

 新生ミス ディオール誕生のニュースを受けて、わたしは彼女の話を思い出したこともあり、ピンクのリキッドが揺れる小さなボトルに会いに行った。ひと振りすれば、はっと目が覚めるようで心地よく、とてもとても幸福に満たされた気持ちになる。そうか、これこそクリスチャン·ディオールが、クチュールブランドを通してわたしたちに伝えたかったドレスアップすることの歓びなのかもしれない。きっと、地下鉄に乗って忙しない日々を生き抜くパリジェンヌたちにとって、ミス ディオールは希望。この香水の名前となった女性カトリーヌ·ディオールの人物像を感じるたおやかでエレガントな香りは、ただ甘く可愛らしいだけではない。確かに誰もが愛さずにいられない香りだけれど、酸いも甘いもある人生をゆくわたしたちを、いつの時代も鼓舞し続けてくれる希望でもあるのだ。

Scene 2

 愛のような香り、といわれたら、どんな香りを想像するだろう?そもそも愛の定義はいつの日も誰にとってもおそらく曖昧なもので、そこに正しさなどないのだろうけど。長年、香りを通してわたしたちを感激させてきた調香師フランソワ·ドゥマシーが、その問いのひとつの答えとして提示したオードゥ パルファン。
 底面にアイコニックな千鳥格子が彫られ、首元には手織りのクチュールボウがあしらわれた可憐な香水瓶からシュッとひと吹き、ふた吹き。幾千もの花々が咲き誇る花畑に飛び込むように、色とりどりに束ねられた大きな花束に顔をうずめるように、溢れんばかりの花の匂いに包まれる。インスピレーションは、フルーティーで溌剌とした印象のスウィート ラブと名付けられたバラ。センフォリティアローズはセンシュアルに、ジャスミンは艶やかに匂い立つ。耽美な花と調和するのは、爽やかで繊細なスズラン。表情豊かなピオニーは、この花々のシンフォニーの中でアプリコットのようなファセットとともにフェミニンに存在感を放つ。そしてパウダリーなアイリスが鮮やかな花々を優雅に束ねている。ラストは、ベチバーとクリーミーなサンダルウッドがすべてを包み込むように。光り輝くような香り。ただそれはパールのようになめらかな、とても柔らかであたたかい光。ミレフィオリのハーモニーはひとつの答えを教えてくれる。お互いがお互いを尊重し、支え合い、引き立て合うことも愛なのだと。

ミス ディオール オードゥ パルファン 30mL ¥9,350 / 50mL ¥13,750 (ディオール)

year : 2021
perfumer : François Demachy
type : EAU DE PARFUM
notes : Roses, Jasmin, Peony, Iris, Lily of the valley, Vetiver, Sandal wood

Behind the Scene of Miss Dior

クリスチャン・ディオールと、妹カトリーヌ

 ミス ディオールの歴史は、1947年にまで遡る。第2次世界大戦を終えた後のフランスは、閉塞感に包まれた暗い時代だった。この時代のパリでデザイナーとしてのキャリアを積み重ねていたクリスチャン·ディオールが、女性たちに笑顔と夢を与えたいと誕生させたのがクチュールブランド、ディオール。初めてのコレクション発表の時から、彼がドレスアップの仕上げに必要としたのは「香り」だった。戦後のファッション界に革命を起こしたニュールックに着替え、愛のような香りを纏う。それは長い冬が終わり、幾千もの花が咲き誇る春がやってくるように、フランスの、そして世界の女性たちに希望を与えた。

 この「愛のような香り」は、クリスチャン·ディオールと同じイニシャルを持つ彼の妹、カトリーヌ·ディオールの愛称から名前がつけられた。それが『ミス ディオール』。ある時、カトリーヌが向こうからやってくるのを見て「ほら、ミスディオールが来たわ」と彼女を称した者がいた。クリスチャン·ディオールはこの呼び名を大変気に入り、フレグランスの名前にしたというエピソードが残っている。カトリーヌは、レジスタンス運動に積極的に参加するなどした非常にアクティブで果敢な女性だったという。その一方で、幼い頃から母とともに花に親しみながら育ち、やがてバラ園を作るほどの情熱を持って花と庭に愛を注いだ。人々を勇気づけ鼓舞する強さと、穏やかに包み込むような優しさを持ち合わせた彼女の姿が、まさにクリスチャン·ディオールが香りを想像するときに思い描いた女性像とピタリと重なり合ったのかもしれない。

フレグランスに宿る生命力に着想を得て、マリア·グラツィア·キウリはフェミニンでモダンなドレスを創作した。

 長い歴史の中で、『ミス ディオール』というフレグランスは何度かその構造を変化させてきた。2021年に新しくこの名を授けられた香水からは、幾千もの花々(=ミレ フィオリ)が重なり合うような、フレッシュで豊かな香りの調べを感じることができる。それは、多種多様な人々が共存する今日の様子をそのまま反映したようでもあり、しなやかさと確固たる意志を持って自らの人生を生き抜く現代女性のようでもある。新『ミス ディオール オードゥ パルファン』のキーワードは、“Wake up”。愛や美しさに目覚めなさい、と香りを通してわたしたちをブレイブする。それはかつてのカトリーヌに励まされるようでもあり、時を経ても、構造が変化していても、このフレグランスにクリスチャン·ディオールとカトリーヌのDNAが受け継がれているのを理解するだろう。

真のクチュール フレグランスとして

 このフレグランスが携えた、もうひとつのクチュールフレグランスの証。それはボトルのネックに結ばれたエレガントで少し生意気なボウ。わずか数センチに396本もの糸が使われ、パステルカラーでランダムの花模様が刺繍されている。点描画のようなリボンは、同じ柄がひとつとして存在せず、それぞれが唯一無二。1864年から高級リボンを生産してきたフランス·フォール社で、アンティークの織機を使って生み出される芸術作品ともいえるボウは、たった数センチでありがながら紛れもなく世界共通のラグジュアリーだ。

ミス ディオール オードゥ パルファンのイメージビジュアルより。

ドゥマシーと “スウィート ラブ”

 2020年、世界は目に見えないウイルスとの戦いへと突入する。香りの冒険とでもいうように、世界を旅しながら調香することをライフワークとしていたフランソワ·ドゥマシーにとっては、厳しい時間の始まりだった。外出もままならず時が止まったような日々を過ごしていたドゥマシーだったが、自然界では当然のように季節が巡り、4月のグラースには光り輝く春が到来して、至るところで花々が咲き始めていることに気づく。彼は、メゾンの長年のパートナーであるキャロル·ビアンカラーナの農園で、これまで目にしたことのない美しいバラに出会った。『スウィート ラブ』というロマンチックな名前の淡いピンクのバラは、フルーティーで甘い香りを放ち、彼の心を奪った。まさに愛の香りのような、インスピレーションを喚起するこのバラとの出会いが、新しいオードゥ パルファン創作の原点となった。

フランソワ·ドゥマシー – 2006年にディオール パフューマー クリエイター就任。グラース出身。その他の作品に、JOY BY DIORやソヴァージュなどがある。

幸せを約束する花束のように

 ベルベットのようになめらかでフルーティー、シャープでエレガント。強さと美しさの両方を感じる、いくつもの素晴らしいファセットを兼ね備えたスウィート ラブ。ドゥマシーは、このバラをたくさんの花々で囲み、鮮やかに色彩を放つ、センシュアルで軽やかな花束を創りたいと考えた。グラースの花農園から届けられる象徴的なセンフォリティアローズとグランディフロラムジャスミン、クリスチャン·ディオールが愛したスズラン、名香らしい高貴さを添えるアイリス、そして新しさを生むピオニー……、それらを束ねて腕いっぱいの花束にするように。ドゥマシーによる新たなコンポジションは、『ミス ディオール』という冠が授けられた歴史ある名香の遺伝子を引き継ぎながら、新時代での幸せを約束してくれるような愛の香りに生まれ変わった。

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ミス ディオールの世界観をより深く堪能する

ミス ディオール オードゥ パルファン ローラー パール20mL ¥5,830(ディオール)

バッグやポーチの中に忍ばせておきたいローラー パール ボトルは、ジュエリーを彷彿とさせる精巧な作りで、さりげなくもエレガント。手首や首筋にガラスパールを滑らせる仕草まで美しく見せてくれる。よりやわらかく、ほのかな香り立ちをパーソナルに楽しんで。

ミス ディオール パレット【限定発売】¥19,800 (ディオール)

ミスディオールの象徴的な千鳥格子とボウのモチーフがデザインされた、フェミニンなルックを叶えるクチュール マルチパレット。フレグランスからインスパイアされたアイシャドウ3色、チークカラーとリップカラーがそれぞれ1色ずつ、ネイル用トップコートがセットされている。

Photography : YUYA SHIMAHARA
Edit & Text : TOKO TOGASHI

こちらの情報は『CYAN ISSUE 032』に掲載されたものを再編集したものです。

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