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 2016年11月に祐天寺にオープンした美容室“darlin.”。看板を大々的に掲げておらず、席数は4面のみという店だが、ミュージシャンを中心に絶大な支持を得ているのだと言う。
 代表の及川恒亮さんは、上京のきっかけについてこう語る。
「僕の学生時代はサロンボーイ全盛期で、有名サロンへの憧れがあり、美容師をやるなら地元ではなく東京だと決めていました。専門学生の時にバイトしていた飲食店は、読者モデルなど刺激的な人が多く、そのとき経験したことや人脈が僕のルーツになっているのかもしれません。専門時代の友人も今の店の内装を手がけてくれて、その時の仲間たちとは、ずっとつながっている感じです」。
 及川さんは、2つのヘアサロン勤務、そして、ヘアメイクのアシスタントを経て、“darlin.”をオープンさせている。
「専門を出て最初に就職したサロンは、オーナーがヘアメイクだったので、いろんな現場に連れて行ってもらいました。それと、1年目から作品撮りを毎月やったおかげで、作品に対するきちんとした意識ができ、ヘアメイクをやりたいという気持ちがその時に初めて芽生えました。環境がちょっとずつ変わっていくうちに、圧倒的なマンパワーのある人と仕事をしてみたいなと思い、店を移りました。1年後には次の店も辞め、ヘアメイクのアシスタントとして、3ヶ月間研修をしました。師匠が作るスタイルはすごくかっこよくて、いろんな人の仕事を見ることができて魅力的でしたが、僕の中では、ヘアメイクとしてではなく美容師を続けたいという気持ちが大きくなっていました。師匠からアドバイスをいただいたり、ディスカッションを重ねていくうちに、自分の本当にやりたいものが見え、ヘアメイクをやりたいという気持ちは、すぱっとなくなりました。
 アシスタントを辞め、これからどうしようと思っていた時に、物件があるから店をやってみないかという話を大暉(沖永さん)と僕にいただき、店を始めることにしました。

darlin.のメンバー。左から木村一真さん、巻野夏穂さん、看板犬の犬けんちゃん、及川恒亮さん、北野七彩さん、沖永大暉さん。

“自分たちがやりたいことをやって その余裕を、お客さんや 美容業界に還元していきたい”

店名は、僕と大暉の二人で決めました。まずAからZまで全部の頭文字から始まる単語を僕が考えて、大暉にアルファベットを選んでもらいました。大暉が自分の名前の頭文字Dを選んで(笑)。偶然にも僕の中で“darlin.”が1番でした。
 “darlin.”というワードは、Daft Punkの2人とPhoenixのローラン・ブランコウィッツの3人が昔組んでいたパンクバンドの名前からもらったものです。ダサイと言われ“Daft” Punkを結成しましたが、彼らは後にグラミー賞を取って成功しているんですよね。店を開く時の僕たちの心境として、まわりからどう思われるかがちょっと怖くて。でも、そんなのどうでもいいでしょ、いずれグラミー取れば、と言う彼らのサクセスストーリーと重ねて“darlin.”にしたんです」。

Phoenixのメンバー、ローラン・ブランコウィッツとdaftpankのふたりが組んでいたパンクバンドDarlin’が店名の由来。

 及川さんとスタッフの間に存在する信頼関係について、「スタイリストは僕を含め全員同い年。グルーヴ感を重視した結果、このメンバーになりました。生まれた場所はそれぞれ違っても、生きてきた時代が同じなので、好きなものやかっこ悪いなと思うものの感覚が似ているんです」と語ってくれた。
 さらに店づくりについて聞くと、人が集まる場所にしたいという思いが、かねてからあったのだと言う。実際に、お店には気軽に遊びに来る人が多く、情報交換をしたり、音楽をかけたり、ミュージシャンの人が来たらギターを教えてもらったりと、営業時間外にも人が集う場になっている。

今をときめくSuchmosやSANABAGUNのサイン。サロンワーク以外にも、PVやライブのヘアメイクも多く手がけると言う。

  今後どのような店にしていきたいか、自身はどうありたいかという問いかけに、及川さんは次のように答えてくれた。
「お客さんやスタッフに余裕を還元したいと思っています。今の規模だからこそできるサービスをしていかないと、僕らは美容師の先輩方には勝てません。お客さんに対してどれだけサービスできるか、そして自分たちのことをどれだけ好きになってもらえるかということから始めないと、かっこいいことをやろうとしても絶対に無理だと思うんです。僕らのお客さんは、自分たちに会いに来てくれる感覚の人が多く、ヘアを100%求めてこないからこそ、120%のヘアを作ってお返しをするのが、最高の形なんじゃないかなと思っています。
 今の美容業界は、『お金がない、時間がない』ということで、不安を抱えている人が多いんです。そういった不安が蔓延して、有名サロンに対する憧れや、かっこいい美容師がいなくなっている悪循環がすごく嫌で。店を始めるときに最初に決めていたのが、『かっこいいことをやる前に俺たちが裕福になる』ということ。もちろん、それまではダサイこともやらなきゃいけないし、ある意味実力をつける時期でもあると思います。
 自分たちが今のやり方を続けた結果、どうなるかということよりも、自分たちが続けたことによって若い世代がどうなるかということの方が気になります。これからも全力で、やれること、やりたいことを全部やっていきたいですね」。

「藤田嗣治が好きで、関連の書籍は何冊か読んでいます。この本を読んで、クリエイターとアーティストの違いを感じました」

photography YUYA SHIMAHARA
Edit & Text YURIKO HORIE

こちらの情報は『CYAN ISSUE 013』に掲載されたものを再編集したものです。

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