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大阪市北区堂島、大川のほとりにある「吉澤暁子 きもの着付け教室」。主催の吉澤暁子さんは、自身の教室の講師だけでなく、百貨店などでの公開レッスンをはじめ、企業への出張レッスン、専門学校や大型商業施設での講演など、国内外で幅広く和の文化を伝える活動をしている。

大切にしている作品

3年前に教室を開いた際に、お弟子さんからいただいたというイラスト。よく見ると着物の部分には和紙が貼られていて、繊細な仕上がり。

「幼少期に和の文化は身近にはありませんでした。お正月に祖母が着物を着せてくれるようなことはありましたが、それはあくまでイベントの一環としてです。着物に対して仕事にしたいという思いや憧れは、当時はなかったですね。初めて自分で着物を買ったのは、高校生の時です。高校の頃は骨董にはまっていました。催事でアンティークの骨董市をやっていて、そこを訪れた時に、偶然、縞の着物と赤いクラシックな着物を見つけたんです。どちらも寸法が小さいし、汚れていて1000円くらいのものだったのですが、直感的に好きだなと思い購入しました。でも自分で着付けはできないので、袖を通さず手元にある状態でした」

 その着物がふと気になり、取り出してみたのは社会人になったときだったと言う。着付けに興味があったものの、3年くらいは習いに行かず、習いはじめたのは36歳のとき。

「それまではデザイン関連の仕事や、飲食店を経営していました。今の仕事も含めて、自分の中ではつながりがあるんです。高校のときには美術系のクラスだったので、きれいなものや、細々とした作業が好きでした。小さい頃からずっと本を読んでいて、最初にデザインの仕事につきたいと思ったのも、本が好きだったからです。着物に興味をもったのも、時代小説の影響だと思います。他にも今まで、骨董や古書、落語、アンティークの着物などにハマり、好きなものを見つけたらのめり込むことが多かったです」

マストアイテム

国内のみならず海外も忙しく飛び回る吉澤さんが欠かせないのが、このスケジュール帳。着物にも洋服にも合う、シンプルなデザイン。

落語好きが高じて、教室でも寄席をやったことがあるのだそう。

「落語家さんと生徒さんを呼んでやりました。楽しいこととか素敵だなと思う感性が似ている方たちとは、自然と興味の対象が似てくるものですよね。着物は着られるようになることが目的ではなく、着物を着ていろんなことを楽しむ為のツールだと思っているんです。なので、落語だけでなく、歌舞伎も生徒さんたちと機会をつくって観に行きます。ひとりで着物を着て出かけるのはハードルが高くても、教室の先生やお友達と一緒であれば、頑張ろうと思えるし、着崩れたときにも直してあげることができますよね。技術を覚えてもらうだけでなく、着て楽しんでもらうことも共有できればいいなと思っています」

“着物姿の素敵な人が増えれば、 着物を着たいと思う人も 自然と増えていく”

それでも、着物初心者の中には興味があってもなかなか踏み込む勇気をもてないでいる人も多いのではないだろうか。そのことついて訪ねてみた。

「着付けは簡単です。覚えることは沢山ありますが、難しいことではありません。5、6回いただければ、お太鼓(帯の結び方のひとつ)まで結べるようになります。ただし、それを美しく着るということになると、知っておいた方がいいことがもっとあるので、半年くらいが一つの目安になります。私の教室では、きれいにみえるポイントを最初にお伝えします。分からないまま見よう見まねでやるよりも、これがきれいな状態だと認識してからやってもらうと再現しやすくなります。

 着付けを習いにくる方も、着付けにくる方にも共通して言えるのは、コンプレックスをお持ちだということです。『着られない』ということ自体にコンプレックスがある方がとても多いのですが、着られない人を着られるようにするのが講師の役目。昔の先生方の中には教えないのに怒っていた方もいたそうですが、生徒さんがだらしなく着ていたら、それは講師の責任だと思います。

 初めての方は決まり事が多くて大変だと思われるかもしれませんが、形が一緒なので一度着方を覚えればどんなシチュエーションでも着回せるのが、着物のいいところです。今は、便利なグッズもたくさんありますが、私の教室では古くからのやり方を教えています。まずはクラシックな方法で、うまくいかないところを試行錯誤してもらったり、いろんな経験をつんで、その苦労も楽しんでもらえればいいなと思います」

ロゴマークの由来

教室のロゴマークのモチーフは、五角形の腰紐。左右対称の美しい形。「ゆくゆくは、グレーの結城紬に紋として入れたいと思っています」

最後に、教室でお弟子さんや生徒さんを指導する上で大切にしていることを伺った。

「たくさんありますが、中でも一番大事にしているのは、着物を着ている女性達が楽しくて幸せな状態でいてもらうことです。例えば喫茶店に行ったり、花火を見に行ったりするのでも、洋服で待ち合わせるのと、着物や浴衣で待ち合わせするのでは、テンションのあがり方が違いますよね。自分の気持ちがあがるアイテムとして、選択肢のひとつに着物があればいいなと思います。着物を素敵に着て、街を歩いている人が増えれば、自然と着物を着てみたいと思う人も増えていくのだと思います」

草履と足袋のコーディネート

パナマ素材の草履に、綿レースの足袋を合わせて。グリーンと藤色がグラデーションになった鼻緒と相まって上品かつ遊びのある印象に。

Photography YUYA SHIMAHARA
Edit & Text YURIKO HORIE

こちらの情報は『CYAN ISSUE 014』に掲載されたものを再編集したものです。

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