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 動物や植物などの温かみのあるモチーフや、色鮮やかで大胆な構図のモチーフ。鈴木さんが手がけるテキスタイルには、見るものを惹きつけ、楽しい気持ちにさせてくれる力がある。意外なことに、幼少期はテキスタイルと無縁の生活を送っていたのだという。

「小さい頃は、ずっと絵を描いているような少年でした。ごく普通の家庭で育ちましたが、イラストレーションがやりたくて美術大学のグラフィック科を目指していました。入学したのは染織科です。特にテキスタイルに興味があったというわけではなく、併願できるところが染織科しかなく、そこにしか受からなかったから(笑)。デザイン科に属していたものの、僕が入った頃は工芸的な色が強く、手描き友禅や型染めなどの授業がありました。今思えばやっていてよかったことばかりですが、当時は、デザインをやりたかったのに何をやっているんだろうという、失望に近い気持ちを抱いていました」。

そんな鈴木さんのもとに、ある転機が訪れる。
「課題の為に図書館で資料を探していたとき、海外の雑誌のバックナンバーを見つけて、そこにマリメッコの写真が載っていたんです。当時、北欧のデザインはそんなに有名ではない上、モノクロの写真だったのですが、洗濯物のようにただ吊ってあるグラフィカルな生地に、強く心惹かれたことを覚えています。当時はインターネットで検索ができるわけでもなかったので、どうやら北欧のブランドらしいということまでしか分からず、マリメッコというブランドだということは、しばらくしてから知ることになりました」。

影響を受けた本

フィンランドの組織“Ornamo”の作品集『THE ORNAMO BOOK OF FINNISH DESIGN』(1962年)。「中でもこの見開きがとても好きです」。

 北欧のテキスタイルに魅了された鈴木さん。卒業後は、粟辻博デザイン室に勤務することになる。
「3年生になったときにテキスタイル・デザイナーの粟辻博さんが登壇されたことがきっかけでした。粟辻先生が大好きで、何度もお願いして先生の会社に入れていただくことになりました。デザイナーとしてだけでなく人間的にも素晴らしく、慕われていた方でした。今でも、ものをつくるにあたってどういうマインドでやっていくべきかということなど、すべてをあの事務所で学んだと思っています。しかし先生がご病気で亡くなり、独立することになりました」。

思い入れのある品々

(左)トーベ・ヤンソン氏の姪から貰ったという人形。(中)アレクサンダー・ジェラルド氏の人形。(右)UNPIATTO代表の鈴木喬子さんによる陶器。

 95年に独立し、2002年にUNPIATTOを立ち上げる。
「北欧の生地に憧れてこの仕事を始めたものの、そのような仕事はほとんどありませんでした。日本の住環境で広く使われるのは、ほとんどが無地のテキスタイル。独立してから10年間くらいは、そういった仕事がほとんどでした。仕事としては充実していてお金も貰えていたのですが、ある日、過労で倒れて2週間ほど入院してしまったんです。そのことをきっかけに、昔憧れていた北欧的なデザインもやっていかないと、当初志したことと微妙にずれてしまっていると感じ、オリジナルブランドの『OTTAIPNU』を立ち上げました」。

OTTAIPNUのテキスタイル

大胆な構図や鮮やかな色彩が特徴のOTTAIPNU。

“テキスタイルに色や柄がのり、人の生活に入っていくことに喜びを感じる”

そして数年後、鈴木さんは念願だったマリメッコとの仕事をすることになる。どのような経緯だったのだろうか。
「最初は本国の担当者に作品を見せに行きました。突然見てもらえるわけもなく、もう少しちゃんとしたやり方をしなくてはいけないなと考えていました。そんな中、仕事をしていた今治タオルの組合の方から、海外の展示会に出たいという相談を受け、条件を見ていくと北欧がいいと思い提案をしました。その企画が通り、今治タオルの展示会としてフィンランドの見本市に出展しました。そのフロアにはマリメッコも出ていて、担当者が僕たちのブースを見に来たんです。そこで初めて面識を持って、仕事につながっていきました。初めて売り込みに行ってから2年くらい後の話です」。

 デザイナーとして活躍する一方、鈴木さんは現在、東京造形大学で教鞭を執っている。学生たちに、どういったことを伝えたいと思っているのだろうか。
「今の学生たちは真面目で優秀だと思います。ただ、インターネットでの調べ物や画像の持ち歩きなど、環境が便利になっている分、それに頼りすぎていると感じます。僕の授業では、実際にやっていることを見せて、それを体験してもらって、自分で何かを感じとって欲しいと思っています。調べ物でも気になるものがあったら、実際に見に行ったり触ってみたりするべき。そうやって得た情報と画面越しの情報では、得られる感覚が違うといつも学生たちには言っています」。

smart canvas×OTTAIPNUの時計

鈴木さんが描き下ろした電子ペーパーを使用した時計。画面のカエルは、季節や時間によって動きが変化する。

 最後に、鈴木さんのインスピレーション源と今後の展望について伺った。
「僕は基本的にモチーフを見て描くということはしません。実際のものを見てしまうと、せっかく自分で持っていたイメージがなくなってしまうからです。イメージのかたまりみたいな、例えば、江戸時代に実物を見たことのない人たちが描いた象の絵なんかがすごく好きですね。
 仕事に関しては、常に新しいものを提案していきたいと思っています。最近は、時計やメガネのデザインなど、テキスタイル以外の仕事も増えてきました。これからもそういった仕事はしていきたいですが、テキスタイルについても諦めたくないと思っています。当初は興味がなかったとは言え、今はとても思い入れがあります。テキスタイルに色や柄がのって、人の生活に入っていくのがとてもうれしいですし、これからもそういうものづくりをしていきたいと思っています」。

Photography YUYA SHIMAHARA
Edit & Text SATORU SUZUKI YURIKO HORIE 

こちらの情報は『CYAN ISSUE 015』に掲載されたものを再編集したものです。

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