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「この人が選んでくる石を身に付けたいと言ってもらいたい」と話す「moemi sugimura」のデザイナー杉村萌弥さん。ジュエリーとしてのデザイン性よりも、素材の天然石そのものに魅力を感じてもらうことを大事にしている。バイヤーとして10年以上のキャリアを積んできた彼女が世界中から選び抜く天然石には、見たことのない模様が入ったものも多い。

原石のコレクション 買い付けの際に出逢った稀少な原石を大事にコレクション。自然の力でできあがった見たこともない模様は、まるで芸術品のよう。

学生時代は文化服装学院のメンズデザインコースに所属し、ファッション業界での仕事を目指していた杉村さん。しかし卒業後は、あえてその道を選ばなかった。

「アパレル企業へ研修に行った際に、全く同じ形の服がずらりと並んでいるのを目の当たりにして、違和感を抱いたんです。それで、自分は量産メインのアパレル業界には向いていないと思いました。就職したのはテキスタイルの小売をしている会社。そこでは、インポートを中心に天然石やアクセサリーのパーツなども取り扱っていました。海外への買い付けを任されるようになって、自分にはバイヤーという仕事が向いているなと感じたことが、今の仕事につながっています」。

思い出のリングとノート インドで初めて自分で購入したというハイグレードなリングと、アイルランドの店から独立する際にオーナーから貰ったノート。

退社後、バイヤーとしての幅を広げようと、アイルランドに2年間の語学留学へ。この時に、ひょんなきっかけから現地のジュエリーショップで働くことになったそう。

「自分用に材料を買おうと思いお店の人に尋ねたら、『そんなに素材の知識があるならウチで働かないか』と誘われて。予想外の展開だったけれど、買い付けに必要な英語の専門用語を現場で学べるチャンスだと思いました。それからは、店番をしながら製作やディスプレイなどを手伝っていました。オーナーも応援してくれて、アイルランドにいるうちに自身のオ ンラインショップを立ち上げました」。

 その後、アイルランドで出会った中国人のご主人とタイに移住。天然石の買い付けやジュエリーづくりの仕事に恵まれた環境で、ブランドとしての「moemi sugimura」を育て、2016年に日本に帰国した。

“上質な天然石を生かすため コンセプトという縛りをつくらない 素材ありきのジュエリーづくり”

「moemi sugimura」のジュエリーづくりは、素材ありきですべてが進んでいく。コンセプトは “ART OF NATURE”、石の魅力以外の概念には縛られないことがアイデンティティだ。

「学生時代は、作品のコンセプトが確立された同級生たちに対して劣等感を抱いていました。でも、アイルランドの多様性を受け入れる文化の中で過ごしたことで、“こうじゃなきゃいけない”という価値観がいい意味でなくなったんです。『moemi sugimura』は、石そのものの魅力を最大限に生かすことを大事にしています。コンセプトに固執してデザインを考えると、どうしてもそれに合う石を探してしまう。スペシャルな素材を見つけ出す際には、邪魔な思考になってしまうんです」。

 これは、「素材屋」でキャリアを積んだ彼女のこだわりでもある。石の買い付けでは、一般的な価値判断だけでなく、杉村さん自身のセンスも重要だ。「石のアイデンティティ」を見極め、唯一無二の存在を探し当てる。そんな天然石のジュエリーを、お守りとして愛用する顧客も少なくない。

「宝石のグレード分けは、発色の美しさや透明度、大きさなどで判断されます。もちろんこれも大事ですが、優先しすぎるとどれも同じような石になってしまうんです」。

 誰も同じものを持っていないような、稀少で個性あるジュエリーをつくるのが彼女の信条だ。ブレのない審美眼は、会社員時代の経験が強く影響していると言う。

「独立まで働いていた会社では、出張時の時もあえて高級ホテルに泊まらせてもらっていました。これは社長の方針だったのですが、一流のサービスを体感し、良いものを見る目を鍛えてこそ、お客様に本物の価値を提供できるという考え方でした。この時の経験がなかったら、今の自分はなかったと思います」。

日々の装い 「自分のブランド以外にも、シンプルなアクセサリーと合わせるのがお気に入り。お客様にもそんな風に楽しんでいただきたいです」

日本を拠点にして約1年。今後の展望について伺った。

「あと数年は、日本でブランドの基盤を固め、その後はまた夫と一緒に他の国に移る予定です。元々何かに縛られるのが苦手な性格なので、石の買い付けを通して、ライフスタイルに“旅”の要素を常に取り入れていくのが理想ですね。また、ジュエリーのデザインに直接反映はさせなくても、産地に直接足を運んでこそ感じる文化や空気感を私自身の中に吸収することも大事です。それが『moemi sugimura』の世界観づくりに繋がると思うので」

 現在実店舗を持たない「moemi sugimura」は、実際手にとって見てもらえるような展示会を定期的に開いている。

「今後は、完成品だけでなくお客様に好きな裸石から選んでもらえるセミオーダーの販売会を行ったり、委託店舗も増やしていきたいです。日本に帰ってきて感じるのは、他の国とは違う日本独自の季節感があるということ。春には桜色、秋には紅葉の色など、シーズンごとの新作も増やしていく予定です」。

「moemi sugimura」のジュエリー (真ん中左から時計回りに)Half bezel ring/ star sapphire K10/ ¥32,400 Spider web/green tourmaline K14/¥37,800、Honey jade butterfly/yellow jade K14/¥57,240、(下段3点)Graphical studs/agate K14GP/ ¥14,040(moemi sugimura)

Photography YUYA SHIMAHARA
Edit & Text SATORU SUZUKI YURIKO HORIE

こちらの情報は『CYAN 015 ISSUE』に掲載されたものを再編集したものです。

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