next prev cart fb in line link open tw yt

「DAN NAKAMURA、ダンナカムラ、中村暖という、3つの名前を使い分けて生活しています」 

 どのような活動をしているのかという質問に、中村さんはこう答えてくれた。

「月・火・水はカタカナの『ダンナカムラ』。デザイナーとして広告会社で修行させてもらっています。木・金は英語の『DAN NAKAMURA』。大学の友人を中心にチームを結成して、自分のブランドの制作に取り組んでいます。土・日は漢字の『中村暖』。この2日間は、プロのアーティストになるために研究室に入って勉強しています。名前を使い分けることによって、自分の中で時間軸を分けながら、そして、頭の中を切り替えながら作品づくりに打ち込むことができるんです」

過去の作品集

「チャンスがいつきてもいいように、制作の過程やコンセプトが分かるブックは常に持ち歩いています。高校生の頃からチャンスには敏感でした」

そんな多忙を極める中村さんだが、2017年11月、自身のブランドである「DAN NAKAMURA」のデザイナーとしての作品が、Design Storiesが主宰する「第1回アート&デザイン新世代賞」でグランプリを受賞した。受賞した作品は、透明なワニ革を使ったクリアバッグ。中村さんは生地の生産からデザインまで、すべての工程に携わっている。

「ブランド立ち上げのきっかけをよく聞かれるのですが、気がついたら作っていたという感じです。小さい頃から、水やガラスに反射した光など、自然界で起きる屈折と反射がすごく好きでした。その価値観は、今のこの作品にも繋がっているのかもしれません。もともと透明なものが好きだったし、何かに価値を与えるということにも興味がありました。僕は無価値なものこそ価値の宝庫だと思っていて、過去にもラオスの不発弾や渋谷のセンター街に落ちていたタバコの吸殻を使って、ジュエリーを作ったりしていました。もっともっと何か出来ないかなと思っている中で完成したのが、この透明なワニ革のシリーズです。捨てられるコンビニの袋を、ハイブランドのバッグに使われるワニ革くらいまで価値を上げたいということと、いかにワニ革の美しさを永遠に残すことができるのかということを考え、出来上がった作品です」

“僕は、当たり前のモノの中に 価値を見出す”

 様々な想いと考察があり、その答えとして完成した透明なワニ革。さらに、“透明”には様々な意味が込められていた。

「見た目も透明ですがそれだけじゃなくて、どこで、誰が、どんな素材で作ったのかということも明確にしていて、製造背景も透明なんです。全て再生可能な素材で出来ていて、ブレスレットは使わなくなっても、細かくチップにして砕いて熱を加えれば、また元に戻ります。見た目も、製造背景も、捨てられて再利用される背景も透明。この三つの透明性を大切にしていきたいと思っています。

 技術的な意味においても、透明なものを作ることはとても難しいことです。ちょっとでも傷がつくと白くなってしまうし、温度が上がりすぎるとすぐに焦げてしまいます。逆に言えば透明なものさえつくれれば、色をつけるだけでなんでも出来てしまいます。僕は、ものづくりにおいて透明こそが一番のラグジュアリーだと思っているので、新たにそういう価値観も作っていきたいですね」

ワニの鱗のブレスレット

「すべて手作業で研磨を繰り返して透明に仕上げています。一番左は失敗作。常に全力で取り組んでいるので、失敗した時はかなり落ち込みました」

 “透明”にこだわる中村さんが、今後作っていきたいものは、どのようなものなのだろうか。

「まだ形になっていないので具体的には言えませんが、この透明なワニ革の次にもやりたいことがあります。20歳になった頃から、自分にしか見えない美しさやクールなものが、だんだん分かってきました。それが一番輝くところは、誰かの一番身近な場所、つまりジュエリーなのかなと思っています。

 透明のワニ革については、あの自然の美しさを残さなきゃという、使命感に近い感覚で作っています。僕が死んで、500年、1000年経って、未来の人が『ここにはこんな文明があったのか』と、文明の歴史を変えてしまうくらいの規模感の仕事をしていきたいです。誰かの思いだったり、痕跡みたいなものを、デザインの力で残していきたいと思っています」

 ブランド「DAN NAKAMURA」としての制作では、素材チーム、言語翻訳チーム、フィンテックチーム、撮影チーム、グラフィックチームなど、いくつかのチームが組まれている。

「改めて考えてみたら合計で80人くらいの人が手伝ってくれているんです。教授が僕の大学の卒業制作を見て『暖くんだけじゃ作れない作品、でも暖くんにしか作れない作品』ということを言ってくださったんですが、本当にその通りだなと感じました。沢山の人の力があって出来上がっているけれど、でも僕にしか作れないということが、一番大事なんじゃないかなと。チームのみんなと世界で輝きたいから、チームと個人のバランスは常に意識しています」

迫力ある本ワニ革

「僕の作品づくりに欠かせないもののひとつが、このワニ革。自然界に存在する美しさを永遠に残すことが、ひとつの使命だと思っています」

すでに様々なことを成し遂げてきた中村さんだが、今後の大きな目標についても伺った。

「50歳になったら自分の美術館を持つことが一つの目標です。作品づくりで失敗するとしばらく落ち込んでしまうことも多かったのですが、最近は、失敗したものも美術館に飾れるのなら、まいっか、と割り切れるようになってきました。

 ただ、今までこういうスタンスでやってくることが出来たからこそ、これから就職するのもありかなと考えています。世の中がもっともっと柔軟になっていく中、自分で決めつけずにいれば、世の中と一緒に変わっていけると思います。自分自身がずっと変わらないままでいると、世の中だけ変わっていって、感覚が古くなったり、世の中についていけなくなったりしてしまいますよね。僕がやりたい“透明”のことや、作品をずっと残していきたいという気持ちがあるからこそ、僕自身が変わらないためにも、変わり続けていかなきゃいけないんだと思います」

再生可能な透明なワニ革

「透明なワニ革は、本来とは違う製法で、圧力によって作っています。素材はPVC(ポリ塩化ビニル)。 再生可能なところにもこだわっています

Photography YUYA SHIMAHARA
Edit & Text YURIKO HORIE

こちらの情報は『CYAN ISSUE 016』に掲載されたものを再編集したものです。

SERIES