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about

江戸末期に茨城県笠間で修行をした大塚啓三郎が、嘉永5(1852)年に益子の根古屋で窯を築いたのが始まりとされる益子焼。当初は藩の援助を受けて、甕かめやすり鉢などの日用品を生産し、隆盛を見せた。昭和初期には、濱田庄司が益子に定住・開窯し、益子従来の原材料や技法を用いて食器や花器などを製作した。濱田によって、日用品の中に芸術性を見出す「用の美」としての価値が讃えられ、その後、影響を受けた若い陶芸家が加わり、現在の益子焼の形を形成していった。さらに、昭和54(1979)年には国の伝統的工芸品に指定され、現在も年2回開催される陶器市には多くの人が訪れるなど、焼物の産地としての発展をみせている。

 陶芸家の寺村光輔さんは、益子で注目される作家の一人。2004年に東京から益子に移住し、若林健吾さんのもとで修行をした後、2008年に独立した。寺村さんは大学時代には経済を学んでいたが、陶芸と出会ったことで、陶芸家としての道を歩むことになった。学生時代に借りていたアトリエで使用していた原料が益子産のものだったことがきっかけで、移住前に幾度か益子を訪れ、開窯の地として益子を選んだ。

 益子に引っ越してからは焼物にひたすら打ち込んだという寺村さん。朝から夕刻まで仕事をして、仕事が終われば自身のろくろの練習や釉薬の研究に時間を費やした。師である若林さんからは、ムラを作らずに毎日仕事をすることの大切さを学び、今もそのスタイルがベースとなっている。

水簸は重要な工程の一つ。バケツの中には、林檎灰や藁を田んぼで燃やした灰などが入っており、あく抜きの作業をする。

「自分にどれくらい仕事をさせるか、客観視することはとても難しいですが、どうやったら自分がいい仕事でパフォーマンスができるかということを常に考えています」と語る寺村さん。自分に仕事を課すということで、自身を高め続ける。

 寺村さんが影響を受けた作家について、師である若林さん以外に、益子で活躍する陶芸家、鈴木稔さんの名前をあげてくれた。若林さんのもとで、作陶からお店に卸すまでの過程を、4年半にわたって見続けていた寺村さんは、独立する際のイメージが徐々に湧いてきていた。個人作家としての独立を考え始めた頃、鈴木さんの作品を見て衝撃を受けたのだという。直接会いに行き、鈴木さんの仕事に対する熱意や、作品を置いてもらうお店との付き合い方、どのように自らを高めていくのかということなどについて話を聞き、個人作家としての心構えについて、大きく影響を受けた。

個展の際に出品される糠青磁の鉢。

 寺村さんの器の一つの特徴として挙げられるのが、「余白」が大切に作られていることである。料理を盛り付けた際に美しく見えるよう、細部まで工夫が凝らされている。特別な1枚ではなく、日常使いの器として、あらゆるものを受け入れられるような1枚であることが、寺村さんの思いだ。

 さらに、もう一つの特徴はその色。益子の伝統的な釉薬に、「並白釉」「柿赤釉」「黒釉」「あめ釉」「糠白釉」「灰釉」(または「糠青磁ぬかせいじ釉」)があるが、ほとんどがこれらの伝統的な釉薬をベースに、寺村さん独自のアレンジが加えられている。現在は10種類ほどの釉薬を使っているのだそうだ。形や使用する土によって釉薬を使い分けているが、土や釉薬の特性を知り尽くしているからこそ、最適な選択ができるのだろう。仕上がりを想定してバランスをとっていて、その判断基準は確実に寺村さんの中にある。

 ろくろ成形はもとより、釉くすり掛けにも高い技術が求められる。寺村さんの器は、華美な装飾や絵付けがなされない為、土本来の色、鉄分、釉薬の濃淡によっての表現が作品の出来を左右するすべてとなる。

益子焼の製作は、陶土の採掘から始まる。採掘の次に行われるのが、「水簸すいひ」と呼ばれる工程である。これは、陶土を乾燥させて砕き、水の中に入れ、撹拌かくはんしてゴミや砂などを取り除く作業のことで、土粒子の大きさにより細粉と粗粉に分けるなどして、陶土を使える状態にしていく。続いて行われるのは、「土もみ」だ。手作業でも行われるが、寺村さんは土練機を使用し、作品に応じて鉄分の多い赤土や鉄分の少ない土をブレンドしている。土もみをして数日間寝かされた土は、ろくろや型起こし、または手ひねりによって「成形」される。出来上がったものは一旦乾燥させ、適度な硬さになったところで、削り作業を行う。成形後は「素焼き」が行われるが、素焼きをすることによって、釉薬の吸収がよくなる。続く「釉掛け」で用いられる釉薬は、鉄や銅、マンガン、コバルトなどの金属類が含まれる。長石質に木灰などを加えた透明釉がベースになり、酸化金属物を加えて色釉が作られる。釉掛けされた作品は、薪窯の場合は数日間、ガス窯の場合は約1日、1200~1300度の高温で焼成され、冷ましてから窯出しの作業が行われ、完成となる。

 2018年、寺村さんの工房には新たに薪窯が作られる。今まで使用していたガス窯で焼かれる陶器と薪窯で焼かれる陶器の仕上がりは、大きく異なるのだそうだ。

 

本焼後の窯出し。
白色の化粧土をかける様子。

 薪窯では、炎の状態によってゆらぎが生まれ、作品に表情が与えられる。また、焼かれる際に天然灰をかぶることで釉薬に影響を与えたり、緋色の焼き色がつく為、決してガス窯には出せない風合いが表現できる。

 独立から今年で10年。新たな境地を迎える寺村さんの今後にも期待したい。
工房でのろくろ成形の様子。ここで製作しているのは、寺村さんが独立以来ずっと作り続けているという「深小鉢」という定番の器。

CRAFTS

(写真左上から)【オクトゴナル 泥並釉】たたら板によって形成された8角形のオクトゴナル。泥並釉とは通称で、正式には「並白釉」という。【オーバルプレート 瑠璃釉】益子の伝統釉という訳ではないが、寺村さんの作品に多く見られるのが、この瑠璃釉。一般的な瑠璃釉と比べ、鮮やかな群青色に仕上がっているのは、寺村さんが調合した瑠璃釉ならでは。食卓のアクセントになるユニークな一枚。【箸置き 6種】上から順に、長石釉、糠青磁、飴釉、泥並釉、瑠璃釉、林檎灰釉が使われた箸置き。あえて精製せずに原土に近いものを使用することで、鉄や有機物が作用し、独特の模様が生まれている。【豆角皿 飴釉、瑠璃釉、糠青磁】寺村さんの作品の中でも、定番人気の豆角皿。写真の3種類以外にも、黒釉、林檎灰釉、長石釉、泥並釉がある。【8寸 リム浅鉢 長石釉】寺村さんが「長石釉はごまかしのきかない釉薬」というように、透明の釉(うわぐすり)は形そのものが視覚にストレートに伝わる。存在感と重厚感を兼ねそなえた一皿。

ブーケポット 白釉

白釉を使用したブーケポット。なめらかさとざらざらとした風合いの中間をとったような、絶妙な質感が特徴。釉薬の作用によって濃淡が出ている為、素地の風合いも楽しむことができる。

猪口 林檎灰釉

林檎の木の枝を燃やした灰と糠白釉を調合した林檎灰釉。釉掛けの際の指跡が、口縁の部分にある模様となって表れている。猪口は元来少量の料理を盛り付ける小さな器。酒器以外としても。

マグカップ小 飴釉

木灰、藁灰、長石、あか粉などを調合して作られる飴釉。釉薬が厚くかけられている為、透明釉によって生まれる奥行きとともに、金属の流れによる濃淡も味わうことができる。

Photography KENGO MOTOIE, YOICHI ONODA
Edit & Text YURIKO HORIE
 

こちらの情報は『CYAN ISSUE 016』に掲載されたものを再編集したものです。

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