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「コリアンダー」が聞き慣れなくても、「パクチー」「香菜」と聞けば、ぱっと思い浮かぶあの歯ごたえと香り。どれも同じセリ科の一年草のことを指しますが、英語、タイ語、中国語の違いを指し、それぞれの名前が混在してるのは、それだけ世界中で古くから利用されていたことを表します。
 現在の日本で流通しているエスニックな用途から考えて、タイや中国などアジアの原産と考えがちですが、実は地中海東部が原産。歴史の授業で誰もが習った、古文書『パピルス』にも出てくるほど、古くから愛されているハーブです。アジア以外でrはメキシコ料理、ポルトガル料理にも用いられているほか、珍しい例では沖縄県・与那国島で、戦前に台湾に渡った人がコリアンダーを持ち帰り、ツナに合わせてお醤油と酢などのドレッシングと和えて食べる「クシティ」という料理があるそうです。
 コリアンダーは古代の時代から、ヨーロッパ地域でその種子を乾燥させ粉状にし、スパイスとして使うことも多かったようです。パウダーにすると独特のクセがグッと抑えられ、現代では肉料理やチャイ、焼き菓子などに使われるようになります。古代からもその独特な香りとコリアンダーシードの持つ健胃・整腸・抗菌鎮静作用に由来して、惚れ薬や精力剤や保存料として使われたり、「幸福をもたらすスパイス」として貴族の埋葬品にたくさんのコリアンダーの種子が見つかったり、アラビアンナイトの名で知られる『千夜一夜物語』では、「愛のおまじない」に使われたり。最古のスパイスであることはもちろん、独特の香りや、その香りに基づく使われ方も、まるでシナモンを思わせます。実はこの2つの植物、どちらもアルデヒドという化合物を含みます。好みが人それぞれなところも含め、かなり”似た者同士”な植物なのです。

 先述したコリアンダーのアルデヒドは「カプリアルデヒド」というもの。しかし、コリアンダーの種子が完熟するとその匂いはなくなり、今度は「コリアンドロール」という甘い芳香に変化します。コリアンダーといえば、あの葉の香りをイメージして忌避する人も多いものですが、それはコリアンダーの一面を見ているに過ぎないのです。コリアンダーシードはお菓子の他に、肉や卵、豆料理に広く使われることも多く、パウダーをひき肉やソーセージの臭み消しに使うこともしばしば。南〜西アジアの調味料「チャツネ」には、コリアンダーシードパウダーが欠かせません。そもそも「コリアンダー」という名前は、葉のアルデヒドに起因した「南京虫に似た悪臭」とまで言われてしまう葉の香り「Koris(南京虫)」と、アニス=八角のようなかぐわしさを持つコリアンダーシードの香り「annon(アニスの実)」というラテン語をかけ合わせてできた名前。葉と種の互いの個性は、コリアンダーの魅力を語るのに切っても切り離せないものなのです。

青いのが苦手なら、パウダーで。ハーブとスパイスの要素を併せ持つ薬草。

日本もコリアンダーを使ったコスメが少しずつ見られるようになってきました。もともと海外では、コリアンダーシードのアロマオイルは古来より体をほぐし暖める効果があるとされています。運動や緊張でこわばった体から疲れを洗い流してくれると言われているため、ボディケアアイテムに入っていることが比較的多く見られます。シードの香り自体もアニス同様に、雰囲気のある爽やかな香り。夏の時期の気分リフレッシュさせるためのハーバルスプレーなどにもよく使われています。近年の研究によると、肌の表面の細胞を保護・修復する効果や紫外線ダメージから肌を守る機能もあるとされており、今後もまだまだ、コリアンダーの「意外な側面」が見つかるかもしれません。

Photographer SUGURU KUMAKI(io)
Styling YUKI YAMAZAKI
Edit & Text KAORU TATEISHI

こちらの情報は『CYAN ISSUE 018』に掲載されたものを再編集したものです。

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