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 国内の職人や作家が作る真鍮やレザーの端材、陶器のピースを繋ぎ合わせたタペストリーから、ラフィア椰子の織物「クバ布」を印象的にあしらったサンダル、クチナシの実で真っ青に染めたワンピース・・・。『WONDER FULL LIFE』大脇千加子さんが様々なジャンルの作家と協同したクリエイションは、どこか潜在的な記憶の中にあるようで、これまでに見たことのないものばかり。トライバルな雰囲気と現代に馴染むセンスが絶妙にアートワークの中に共存しています。

ありのままの美しさを楽しむ。大脇さんのイマジネーションの素である鉱物やサンゴのかけらに、淡水パールのブレスレット(右)を載せて

普遍的なイメージのなかにありながら、言葉ではくるみきれない、壮大な創作と時間の旅物語。

元々はアパレルブランド「Kitica・cokitica」を立ち上げ・運営していた大脇さん。2016年にWONDER FULL LIFEをスタートして以来作られた衣服は「春夏もの、秋冬ものと目まぐるしく変わるコレクションとは違い、限られた型数の定番を染めや柄を変えながらつくり続けるという継続的な服を作っています」と話すように、飾って楽しむアート作品だけでなく、シーズナルな暮らし方も大切にしながら通年着て心地の良い服が揃います。それぞれに職人さんや素材の物語があり、やはりこれも単なるファッションアイテムではなく、芯の通ったアートワークの一つなのだと感じられます。
 WONDER FULL LIFEの成り立ちは、大脇さんが旅をして、色々な職人やつくり手の作業を見てきて気づいたところから始まっているのだそうです。「どんな作家でも作っていると、どうしても廃材が出てしまう。陶器の型から余った部分や、金属からカトラリーを切り出した後のカーブとか・・・そういった1つの用途を果たした跡って、『廃材』と呼ぶには惜しいほどのなんとも言えない愛おしさがあるんです。”必要とされて残った跡”というものがすごく魅力的な形に思えて、『まだこのかけらたちは、なにか役割があるんじゃないか』と感じたのがきっかけです。でも、よく考えたら、必要とされてきた形の跡ということは、作品を線で切り取った”欠片”なわけで、それは美しいに決まっているんですよね。
 そんなもの達が手元に集まってきて、廃材とされてしまったものたちがただ眠っているのではなくて、誰かの手元に届いたらいいな、というのが始まりです。」。そこで大脇さんがまず作り出したのは、下の写真にあるようなタペストリー。現在は青山のTRUNK HOTELなどにコレクションされています。編んでいって出来上がってくるのは、どこかトライバルながら、スタイリッシュな飾り。パーツや紐の編み模様など、様々な形を引き寄せながら大脇さんが繋ぎ合わせ編んでいく姿は、何千年も前から続いてきたどこかの民族が衣装に刺繍を施すような、はたまた、母なるひとが子守唄を歌うような、そういったある種の『祈り』の姿のようにも見えてきます。
「近ごろは、この紐を途中まで編んでから、古代染の作家さんにお願いして染めてもらって、私のところに戻ってきた素材をまた編むという創作をしています。染める色の仕上がりなども、自然と相手に委ねているから、本当に上がってくるまでどうなるかわからない。遠距離の共同作業ですね。

奄美大島の「金井工芸」の古代染で仕上がってきた、制作途中の素材を拝見。ここから色を感じながら創作する。

私はいつも『こういう模様を作ろう』と思って編むのではなく、素材そのものの力を借りてイマジネーションを広げ、編んでいるという感じです。もちろん、古いものや伝統的な作品に影響されることも多いけれど、『この穴にはこの紐が通ったから、ここにここを繋いでみよう』と思って編むと、不思議と形になるんです。言葉にはできないんだけれど、感覚的な確信みたいなものがありますね。編んでいるときは確かに誰かの幸せを祈るような気持ちになることも多いかな。きっとこの営みは世界中で行われてきた、普遍的なことなんだろうと思います」。

「自然には美しいものが溢れている」と大脇さん。地表での採集も、イメージの繋ぎ合わせも彼女にとっては非常に近い営みだと気付く

ものや作家の想像力に有形無形の力を借りながら、創作を続けている大脇さん。ご自身の肩書きはどうしたらいいですか?と尋ねたところ「何か繋いでいるということは確かですが、ディレクターでもなければデザイナーだけでもない。私は時につくり手でもあり、伝え手にもなるので難しいな(笑)それに、人と一緒にものを作っているけれど『コラボレート』という言葉だとちょっと違う気がしているんだけれど、なんて言葉にしていいかわからなくて•••。私が一緒にものを作る相手にお願いしていることは、もっと、自分を突き詰める作業のイメージです。その場限りで出来上がって終わりではなくて、その時作ったものが後に残っていったり、新しい歩みになったり•••。そういうことのできる人との真剣勝負でしか産まれない熱量みたいなものを形にしているんだと思います。もちろんうまくいかない時もあります。だから私にとっては、常に勉強させてもらいながら創作しているという感じが近いです」。
 遊牧民のように様々な土地を旅しながら出会いを繋ぎ合わせてつくり、時には交換しているものは、もしかしたら大脇さん自身や制作物だけでなく、世界中で行われてきた手から手へでしか語りえない、普遍的なスピリットも一緒に旅しているのかもしれません。

82歳になる横田安さんと作ったポットやスツール、鹿児島の窯元ONEKILNとコラボレートした食器。日常に落とし込めるアート作品

Photography YUYA SHIMAHARA
Edit and Text KAORU TATEISHI

こちらの情報は『CYAN ISSUE 018』に掲載されたものを再編集したものです。

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