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 1975年、日本で初めて国の指定を受けた伝統工芸品「南部鉄器」。重厚感のある美しさや、すぐれた耐久性などから、現在は国内だけでなく海外でも愛用者が増えている。
 その起源を遡ると、17世紀初頭から中頃、南部藩主の南部信直が、京都から盛岡に釜師を招いたことがはじまりだと言われている。南部藩はその後も、技術の保護・育成に努め、各地から鋳物師、茶釜職人らを呼び寄せ、茶の湯釜や大砲、釣鐘などをつくらせた。これらのことに加えて、盛岡は、砂鉄や岩鉄などの良質な鉄資源、川砂、粘土、漆、木炭など原料をすべて揃えることができる場所であったことから、南部鉄器は大きく発展していった。

鉄器の製造プロセスを間近で見ることができる「岩鋳鉄器館」の外観。館内の鉄器ギャラリーも、見どころたっぷり。

そして、8代藩主の南部利雄は茶に秀で、武士や町人にも茶道を広めた。御釜師がつくる「南部釜」はのちに幕府や各藩への贈呈品となり、その名声をさらに高めていくことになった。このように、茶道が普及していく流れの中で、御釜師が考案を重ね、茶釜を小ぶりにして改良したものが、現在の南部鉄瓶の原型になっている。

 岩鋳は、1902年に岩清水末吉によって創業。末吉は、当時業界でもその腕前を広く知られる職人だった。創業から100年以上経過した現在は、国内外に100万点もの製品を出荷し、県内で唯一、デザインから製造、販売までの一貫生産を行う一大メーカーにまで成長した。カラフルな急須が海外市場でヒットするなど大きな成功をおさめたが、今日の姿があるのは、太平洋戦争による全面製造中止や日本人のライフスタイルの変化など、いくつもの試練を乗り越えてきたからこそだという。400年以上脈々と続く伝統を継承しながら、現代の人々に愛される南部鉄器をつくり続ける。

鋳型の製作の様子。鋳型の中心に挽型板を回して型をつくる。北上川の川砂と粘土汁が原料。

 職人の熟練の技術によって、ひとつひとつ手作業でつくられている鉄瓶。驚くことに、出来上がるまでに80以上もの作業工程があり、デザインから完成まで2ヶ月近くを要することもあるのだそうだ。鉄瓶本体と鉉とでそれぞれ専門の職人がおり、お互いの技術が結合してはじめて、ひとつの鉄瓶となる。ここでは、鉄瓶本体の工程を大まかに迫っていきたい。

「文様捺し」とよばれる鋳型の製作工程。

 まず行うのは、作図(デザイン)の作業だ。鉄瓶の形を設計した後、実寸大の図面を引き、挽型板をつくる。次の鋳型の製作では、川砂と粘土、埴汁(粘土の汁)を混ぜ合わせて素焼きの型に入れ、挽型板を回して型を作る。そして、挽きあげた胴型が乾燥しないうちに行われるのが「文様捺し」だ。先端が、丸いアラレ棒を使って、文様を全て手作業で捺していく。最後に800度で鋳型に焼いたら、ここでようやく鋳型に組み立てる。

鋳込みの工程。鉄の温度は1400〜1500℃にもなる。

 次は「鋳込み」の工程で、溶かした鉄を「湯汲み」とよばれる柄杓状の道具で受け、鋳型に流し込む。鉄が固まったら、型をあけて製品を取り出し、砂などをきれいに取り除く。その後、鉄瓶を約250℃まで加熱し、「くご刷毛」よべれる特殊な刷毛を用いて表面に漆を焼き付けていく。漆で下塗りを終えたら、着色を行う。100〜150℃で鉄さびとお茶で作った「おはぐろ」や「茶汁」を丁寧に焼き付ける。その後、布で何度も拭き、鉉をつければ完成だ。

鉄瓶の着色作業。「くご刷毛」を使って、漆を焼き付けていく。

 その質実剛健な佇まいや、アラレや亀甲をはじめとする美しい文様だけでなく、鉄瓶で沸かした湯の美味しさや機能面も評価され、今また注目を集めている南部鉄器の鉄瓶。長く使えば使うほど愛着が湧き、味とあってその深みが出てくる。暮らしに取り入れることではじめて、400年もの間に人々に愛されてきた理由がわかるのかもしれない。

CRAFTS

18型千鳥アラレ(こげ茶)

緩やかな曲線が優美な佇まい。茶釜の面影を残す形状に、緻密な表情を醸し出す。釜師と呼ばれる職人の手によって製造されるため、伝統工芸士の銘が入る。代々受け継いでいきたい作品。¥48,000

9型平丸亀甲 黒焼付、棗型線引(黒)清茂作

(写真左)少量のお湯で沸かしやすく、初めて鉄瓶を買う人にオススメのサイズ。9型平丸亀甲 黒焼付 ¥18,000、(写真右)暮らしに馴染みやすい、シンプルな文様の鉄瓶。伝統工芸士の銘入り。棗型線引(黒)清茂 ¥43,000

急須 らいす(ERU、グレー、グレープ)

お湯の温度を常温でキープしてくれる南部鉄器の急須。その名の通り、お米をイメージしたというユニークなデザイン。ポップで大胆なカラーリングが楽しい。上記に黒を加えた4色展開。内側はホーロー仕上げ。各¥10,000

Photography KENGO MOTOIE
Edit & Text YURIKO HORIE
Web Edit KIKUNO MINOURA

こちらの情報は『CYAN ISSUE 019』に掲載されたものを再編集したものです。

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